社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
10.親の欲目というやつ
 くるみに結婚の申し入れをして……それを受け入れてもらえた実篤(さねあつ)は、その日の夜すぐ、興奮冷めやらぬまま両親にその旨を報告した。

 今更「会わせたい女の子がおるんよ」と言うのも白々しいと思ってしまうのは、年末年始にくるみがすっかり栗野家(くりのけ)の面々に馴染んでしまっていたからに他ならない。


「今日ね、俺、くるみちゃんにプロポーズしたんよ」

 電話越し、ごくごく短く事実を告げたら、母・鈴子(すずこ)が電話先で引き()れたように息を呑む気配がした。

『ちょ、ちょっと待っちょりんちゃい』

 その声と共に『お父さぁ~ん実篤がぁ〜!』と電話を保留にもせず父・連史郎(れんしろう)を呼ばわる声がして。

「ちょっ、母さんっ」

 (べっ別に後日ちゃんとくるみちゃんと一緒に報告がてら顔見せする予定じゃし、今そんなに慌てんでもええんじゃけどね⁉︎)と妙に照れくさくなってしまった実篤だ。


***


 だが、母・鈴子にだってちゃんと言い分がある。

 父に似た強面(こわもて)でめちゃくちゃハンサム(あくまでも鈴子の主観)な長子が、その強そうな見た目とは裏腹。
 誰に似たのか死ぬほど不器用でヘタレなこともよく心得ていたから。

 自分似の〝するん〟とした顔立ちをして、尚且つ父親似のやたら要領の良いところを受け継いだ八雲(やくも)鏡花(きょうか)に対しては全く覚えない不安を、実篤(さねあつ)に対してのみやたらと覚えてしまっている鈴子(すずこ)だ。

 実際、鈴子は連史郎(れんしろう)とふたり、常々『実篤はちゃんと結婚できるんじゃろうか』と心配していた。

 学生時代にはそれでもまぁ何とか生活圏内での出会いがあったのだろう。八雲や鏡花ほど色濃くはないものの、ほんのりとは女性の影がちらついていた実篤なのに。
 就職してからはパッタリそういう気配を感じさせてくれなくなって、余計に鈴子と連史郎はヤキモキさせられていた。

 常に恋人の気配が絶えない下二人の爪の垢を煎じて飲ませようかと思ってしまうほど、実篤には本当に浮ついた話が全くなかったのだ。

 面倒見が良くて頼り甲斐がある上に、これでもか!と言うぐらい優しくて一途。
 親の欲目かもしれないけれど、結婚相手としてこれ以上ないほどの優良物件だと思うのに。
 やたら不器用で奥手。尚且つそれに追い討ちをかけるような鋭い見た目のせいで、長男坊には不動産屋を任せてからこっち、何年間も彼女がいなかった。

 それが、超絶久々に彼女が出来たと報告してきただけでも驚きだったのに。
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