社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎

　差し出されたパンを受け取るべきか否か寸の間(ま)躊躇して、中途半端に手を上げたまま挙動不審にさまよわせた実篤(さねあつ)の瞳が、眼前の女の子の視線とかち合った。

　色素の薄い長いまつ毛が、先刻の涙でまだほんのちょっと濡れているように見える。
　そのまつ毛に縁取られた大きなくりくりの目が嵌まるのは、クッキリと綺麗な二重まぶたの中。
　赤みを帯びたオレンジにも感じられる、茶色い瞳(アンバーアイ)に吸い込まれそうな錯覚を覚えて、実篤(さねあつ)は急いでチョココロネを受け取った。


「――？」

　と、包みをもらい受けたにも関わらず、やけに大きな目でじっと見つめられ続けて、実篤(さねあつ)は柄にもなくドギマギしてしまう。

（えっと……何なん、これ。どうすればええん？）

　手の中のチョココロネと彼女を見比べたら、初めて小さく微笑まれて、実篤(さねあつ)は彼女の意図をやっと理解した。

　きっと彼女は感想を欲しがっている――。