eスポーツ!!~恋人も友達もいないぼっちな私と、プロゲーマーで有名配信者の彼~
『わかりました。もうすぐ着きますので』

ドキドキして、手の汗が気になってきてしまう。当たり前のことだけど、ひとつ踏み出す度にヤマトとの距離が近付く。一度立ち止まって、ゆっくり深呼吸をした。大丈夫、大丈夫。

私は肩で風を切りながら歩きだす。

――いた。ヤマトだ。その横にはプロゲーマーのソウマさんもいる。
ソウマさんも『ゲーマー界のアイドル』と言われるだけあってオーラがすごい。

でも、私がそれよりも気になるのは、ヤマト。

画面のなかじゃないヤマトってあんなに背大きいんだ……。
高鳴る胸をぎゅっと抑えて、私はヤマトに近づく。

ヤマトは不思議そうな顔で私を見つめた。落ち着け、私。
髪を耳にかけて、何度も練習した笑顔でヤマトに話しかけた。

「こんにちは、ハルです。今日はよろしくお願いします」

返事がない。

なぜかヤマトとソウマさんが固まっている。
少しだけ間を置いてから、ヤマトの叫び声がした。

「えええええええええええええええ!?」

「ちょ、ヤマト! ハルさんって女の人だったのか!?」

「いや、男の人だと勝手に思ってて……ってごめんなさい! ハルさん俺らこんなに驚いちゃって」


ヤマトの顔は耳まで真っ赤になっている。

ヤマト、私のこと男と思ってたんだ……。今思えば『ハル』ってだけじゃ女かわからないし、なによりゴリラアイコンだったもんね……。

「いえいえ、私の方こそ驚かせてしまってごめんなさい。私も勝手に女だと知ってもらえているような気分になっていました。今思えば、性別の話なんて一切していませんでしたね」

私が頭を下げると、ヤマトは手がとれるんじゃないかという勢いで手を振る。

「何言ってるんですか! 悪いのは全て俺です。こんなにむさ苦しい男ばかりのオフ会に呼んじゃって……あーもうほんとどうしよう」

「こんなに可愛い子が来たら僕は嬉しいけど、ヤマトがなぁ。ハルさん、こいつ全然女性慣れしてないんで優しくしてやってくださいね」

ソウマさんが茶化すように私に囁くと、ヤマトはソウマさんの肩を小突いた。

「ソウマ、いらんこというな!」

ヤマトの顔はまだ赤いままだ。私がその顔を見つめると、ぷいっと目線を逸らしてしまった。

――か、かわいい……!身長180cm近い男性の照れている姿に、私は胸が高鳴る。これが萌えってやつなの……?

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