eスポーツ!!~恋人も友達もいないぼっちな私と、プロゲーマーで有名配信者の彼~
第6話:ターニングポイント
「お初にお目にかかりますわね」

そのお嬢様は、しなりとした歩き方でこちらに近づいてくる。

「……ヤマト、知り合い?」

「いや、全然知らない」

ヤマトは身構えながらも、私の前に出てくれる。

「すいません、どなたですか? 申し訳ないですけどハルはこれから大事な試合なので、できたらそっとしておいてほしいのですが」

「まぁ! ヤマトさんったら……わたくし、いつもヤマトさんの配信を見ていますの。ツバキ、と言えば思い出していただけるかしら?」

――ツバキ。あっ! ヤマトの配信でよく高額投げ銭している人じゃないの⁉

ヤマトも私と同じように思い出したらしく、気まずそうな顔をした。

「え、ああ! ツバキさん。もちろんわかります。いつも応援ありがとうございます」

「ふふ、覚えていただいているなんて光栄ですわ!」

いや、そりゃ覚えてるでしょうよ……ヤマトというか、ヤマトの事務所からしたらお得意様みたいなものだ。

投げ銭の金額、風貌、喋り方……どうやら本当にお嬢様らしい。

「――ヤマトさん、ハルさんとはどういう関係ですの?」

「……申し訳ないですが、以前動画でお話した通りなんで」

「そうですか。たしかに、ハルさんはそこそこの腕前でいらっしゃいますわね」

ツバキさんは、私のことを鋭い目つきで睨む。

「でしたら、もし私がこの大会……優勝をしたら、ヤマトさんは私とも宅オフ……とやらをしてくださるのかしら?」

名前を聞いたときにもしかして、とは思っていた。
Bブロックで勝ち進んでいる唯一の女性プレイヤーの名前は、ツバキ。

それが今、目の前にいるお嬢様なのだ。

ヤマトは視線を落とす。

「いや、それは――」

「できますわよね? 事務所がNGでないなら、大会優勝者と試合をするなんてありがたいことではなくって? しかも、それが日本を代表する財閥・西園寺の嫡女であるこのわたくしなんですから! オーホッホッホッ‼」

高笑いをするツバキさんに、ヤマトの顔は青ざめている。
ヤマトは女性が苦手だ。それなのに……。
なにより、ヤマトとツバキさんがふたりで宅オフなんて。
ざわりとした感触を胸に感じる。

「優勝はさせません!」

思わず出た私の言葉が、会場の廊下に響いた。
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