eスポーツ!!~恋人も友達もいないぼっちな私と、プロゲーマーで有名配信者の彼~
内容を聞きながらメモを取る。お母さんはそれを覗き込むようにしていた。


「――わかりました。少し考えさせてください。では、失礼します」

電話を切るやいなやお母さんが詰め寄ってくる。

「なに? 仕事の電話?」

「違う……ちょっと信じられないんだけどね……」

『ハル選手が、日本代表選考大会の出場権を得ました』
伝えられたのは、その一言。

これはREVOのことだ。

ヤマトは、この大会で優勝することを目的にずっと頑張っている。

ある程度の実績がないと出場すらできないのに……どうしてこのタイミングで……。

ずっとヤマトのことを応援していたのに、いざこの大会で戦うとなると、いい気はしない。
ヤマトが日本代表に選ばれることにどれほど真剣に向き合っているのか、彼女である私が一番わかっている。

「ねぇ、どうしようお母さん……」

お母さんも頭を抱えて「お父さんに相談するわ」と言って、台所に行ってしまった。



夕ごはんを食べたあと、私はツバキさんに相談することした。

なぜだか少し緊張しながら、発信のボタンを押す。

ツバキさんは思いのほか、早く電話に出てくれた。

『はい、わたくしですが』

「春菜でございます……じゃなくって、すいませんこんな夜に」

ツバキさんと話していると、ときどき喋り方がうつってしまう。

私は自分の感情を整理するかのように、REVO出場のことを含めてツバキさんに相談をした。

『なるほど。で、ございますわね』

「ツバキさんなら、どうします?」

『むしろ春菜さんが迷っていることの方が驚きですわ』

「と、言うと……?」

『自分のために、春菜さんが出場を辞退するなんてすごく嫌な気分になりますわよ。そんなの、愛じゃありませんわ。ただ、春菜さんはヤマトさんと戦いたくないだけ』

「そ、そんなことは……!」

『いーえ。そうですわ。だいたい、あなたが知っているヤマトさんは、そんな気遣いをもらって喜ぶ方なんですの?』

……それは、きっと違う。

『まぁ、本人に話してみなさいな。例え選ばれる代表がひとりだとしても、そんな気遣いをしてはいけません。春菜さんはプロゲーマーになるのでしょう? そんな腑抜けた考えは、今お捨てなさい! だいたい、あなたが出場したらヤマトさんは絶対に負けますの?』

「……私、調子に乗ってましたね」

『そうですわ。出場権がいらないなら、わたくしに譲ってくださいませ』

「ツバキさん、ありがとうございます」

『どういたしましてですわ。それでは、私はトレーニングがありますので』

たしかにツバキさんの言う通りだ。
ちゃんと、ヤマトにこのことを報告しよう。

逃げてちゃ、ダメだ。

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