6月の雪 ―Special Snowflake―

「どんな悩み事なんだ?」

「えっと……『歌手になりたいという夢があります。そのために音楽学校への進学を希望していますが、両親が賛成してくれません』だって」

「歌手になりたい?」

「うん」

「でもさー『〇〇になりたい』っていう書き込みは他にもたくさんきてるよ?」

「そうだよな。そういう願い事じゃなく、もっと深い悩みっていうか……」

 そう言いながら、ひな子はスマホをこちらに向けた。たくさんの悩み事がひな子の手にしたスマホの中を流れていく。翔太も考え込むように腕組みをした。

「うーん……そうなんだけどね……」

「新菜、何か気になるのか?」

「うん、なんていうか……」

 ここまで何度も書き込んでくることも気になるんだけど、何かそのもっと奥……。

「……新菜の勘か?」

「うん、そんな感じかな……」

 蒼生くんはいつも私の意見を気にかけてくれる。
 こういう時、本当に自分の語彙力の無さにガッカリする。どう説明していいのか、どう伝えたらいいのか分からない。でもそれは、本当に自分の勘でしかないんだけど。勘というか、直感。

“歌手になりたい”なんて、小さな子供の頃の夢みたいと笑うかもしれない。でも、私にはそうは思えなかった。

「メールからの文字では受け取れはしないけど、なんていうか……」

「翔太、ひな子、このアカウントネームの人物調べられるか?」

「蒼生!?」

 蒼生くんの言葉に翔太がビックリしている。
 そりゃそうだよね。私のただの勘というものを蒼生くんは信じてくれて、いつもその人物がターゲットになっている。

「まぁ、調べることは簡単だけど。なぁ、笠原」

「うん、それくらいはね」

 普通の女の子の進路の悩みにしか感じない、この書き込み。なんで私がこんなに気になったのかも自分でも分からなかった。ただ、からかっているだけの書き込みにしては同じことが何度も書かれていて、私たちの目に留まるようそれは頻繁だった。

 ううん、“必死”と言った方が正しいかもしれない。

『誰か気付いて!』そう訴えかけるような……。

 私はそう感じていた。

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