恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
早いうちに新しいクラスへ入り,自分の席に座った俺。

少しすると,愛深が友達と共に入ってきて,俺の前に斜め後ろに座った。



「あ」



なんとなしに振り向いた愛深は,ようやく俺の存在に気がついて。

頬杖をついていた俺の目に,愛深の顔が映る。

あかつきとあおのだから。

たまたま,席はとても近かった。

じっと愛深を見つめて見る。

隣でも,逆の席でもなくて。

後ろからほんの少し愛深を眺められるこの席は,割りと満足だと思った。



「お,おはよう」

「おはよ」



少しぎこちない挨拶に,小さく口を開く。

微妙な表情で,もう要はない愛深は前を向いてしまった。

冬休み前の出来事を気にしてるのは,目に明らかだった。

だから,何を言うことも出来ない。



「なんか,ごめんね」



突然聞こえた見知らぬ声に,つい反応してしまう。

声の主は愛深の隣に座った男で,声をかけられたのは俺ではなく,愛深の方だった。



「いや,謝らなくても大丈夫です……えと」

「青山 健(あおやま たける)」

「健さん……青野 愛深です。よろしくね?」



直ぐに打ち解けたように目の前の2人は互いにくすくす笑う。




「よろしく。固いから敬称はいい。俺らタメじゃん?」

「健くんでいい? 慣れたら呼び捨てしちゃうかもだけど」

「うん,そうして」



愛深は弘にするようにポンポンと言葉を投げ掛け,旧知の仲にすら見える程楽しげに笑っていた。

適応能力の高さに,もう少し人見知りして欲しいと思ってしまう。
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