恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~

笑顔の方が,まだまし




「こっち見んなよ キモい」



そんな小馬鹿にした声が聞こえたのは,翌日のこと。

癪になって見ると,その前にいるのはまさかの愛深で。

俺の不機嫌な顔がさらに濃くなる。



「見えないから」



俺に向けられることなんてない,無表情な顔。

どれだけの感情をしまってるんだろう。

無機質な声も,愛深を知っている人間からしたら,痛々しいだけなのに。

ムカつく奴でも見るように,昨日と全く同じ奴が愛深すれすれに去っていく。

どこまでも一方的で,逆に愛深の方が引き留めるように振り返る。

何を言う機会も無かった愛深は,泣けない瞳を暗くして。

1人唇を結んでいた。
< 64 / 150 >

この作品をシェア

pagetop