恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
ご飯なんて作ってない。

何度か家のことをしなくちゃと思ったのに,そんな気力無かったから。

心臓が嫌な音を立てる。

俺が,今日のこの人の何をいつ刺激するかなんて分からないから。

ただいまの4文字も口にせず,真っ直ぐ俺を横切った母さんに。

おかえり。

息子の俺も,口の中に噛み砕くしか出来ない。

噛み砕いたその一言が,喉に刺さるように,痛みを感じて寝たふりをする。

自分の服を,きつく握ったまま。

母さんは風呂を沸かして,ご飯を炊いて,味噌汁を作った。

主菜も作ろうとしたのか冷蔵庫を何度も開けたけど,それはやめたようだった。

今日はいつもよりずっと,普通の過ごし方をしていた。

そう思ったけど。

ご飯が出来上がって,なのに母さんは食べなかった。

そのままふらふらと父さんの下へ行き,静かに横になる。

そして数分したのち,思い立ったようにトイレへと向かった。

じくじくと手首が痛んで,耳鳴りがする。

ちぐはぐとは言えない。

けど,関連性も突拍子もない母さんの行動に,不安を憶えずにはいられなかった。
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