一夜限りのはずだったのに実は愛されてました
***

「紗夜?」

カーテンの隙間から入り込み陽の光で目が覚めた。
俺の腕の中で眠りについたはずの彼女の姿がない。

声をかけるが家にいる気配は全くない。

やられたな。

ベットは冷たくなっており、明け方こっそり抜け出たのだろう。

やっと手に入れた彼女にまた逃げられてしまった。

紗夜が入社して3年、俺はずっと紗夜を見つめてきた。
去年あたりからいよいよ痺れを切らし、食事に誘うが彼女にはその意図が伝わらないらしく必ずと言っていいほど矢口や坂巻可奈を連れてくる。
2人とも俺の顔を見て察知するが、当の本人は気が付かずにいる。紗夜はきっと深い意味はなく他の人にも声をかけているのだろう。

気がついたスタッフからは「アプローチが足りないのではないか?」「遠回しでは伝わらない」などと辛辣なコメントをもらった。
周りが気がついているのに当事者が気が付かないなんてことがあるのか?
気がつかないふりをされているのでは、と思うが紗夜に至ってはそんなことはないだろう。

そんな紗夜をようやく2人きりで食事に誘い出すことができたと思った途端、彼女のお見合いの話を聞いて焦った。

彼女にはお見合いをせざるを得ない事情があった。
ただそれは彼女の意思に反するものだと聞いて安心したと共に、そんな結婚をさせてたまるかという思いに駆られた。

俺にしがみついて泣く紗夜に保護欲が掻き立てられた。
それだけではない。
このまま俺の腕の中に閉じ込めてしまいたい、俺の手で幸せにしたいと思った。

フワフワした髪に手を差し入れ、唇を奪うと紗夜は驚いた様子だったが拒絶しなかった。
それをいいことに俺は執拗なほどにキスを求めた。
キスだけでは足りず、紗夜をマンションに連れ帰り抱き潰してしまった。

今朝起きたらちゃんと紗夜に付き合ってほしいと言おうと思っていた。

それなのに逃げられてしまった。 
体だけの関係だと思われてしまったのだろう。

紗夜の初めてをもらうだけの覚悟があったと知ってほしい。
誰でもよかったわけでなく、紗夜だから抱いたんだと伝えたかった。

俺はリカバリーすべく電話をかけたが紗夜は出てくれない。
何度もかけるがそのうち留守番電話に切り替わってしまった。

くそっ!

仕方なくメッセージを送った。

【紗夜、話したいことがある。電話に出てくれ】

けれどそのメッセージはいつになっても既読がつくことはなかった。
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