一夜限りのはずだったのに実は愛されてました
私は父の言葉が背中に重くのしかかり、気が重く心から笑えない日々が続いていた。

一つ納品を終わらせた可奈ちゃんが私をランチに誘い出してくれた。
女子は私と可奈ちゃんと真子ちゃんしかいないけど、真子ちゃんは今日外出している。
可奈ちゃんは私の2つ上だがあまりの幼顔に、高校生くらいに見えてしまう。
それが本人にとってはすごく嫌らしいが、フワフワした天然パーマに栗色の髪、目元がぱっちりしているため私には羨ましい限りだ。
でもこんなに可愛い見た目なのに我が社にとってなくてはならないエンジニア。
パソコンオタクだから、というけれどそういうレベルではないくらいの技量だとみんなはいう。

「最近の紗夜ちゃん、なんか暗くない?笑ってるけど笑ってないっていうのかなぁ」

「え?」

「何かあった?」

「うん……私ファービス辞めないといけないの」

「どういうこと?」

可奈ちゃんは驚いてテーブルに身を乗り出してきた。

「うん、お見合いして結婚しないといけなくて。父が年明けすぐに席を設けるから仕事を辞めて帰ってこいって」

「何それ?お見合いなのに仕事辞めて帰らないといけないの?気に入らなかったら結婚しないのに?」

「うん。これは決まりみたいなものなの。それに父の言うことは絶対だから」

「紗夜ちゃん、いつの時代の話してるのよ。自由恋愛の時代だよ。そんな父親の言いつけで結婚なんて考えちゃダメだよ」

「でも家業のためにも必要なの」

「政略結婚ってこと?それも今どき聞いたことないわよ」

私はうなだれながらお昼ご飯のきんぴらをつまむが口に運べない。
食欲も湧いてこない。

「私、なんの役にも立たないけどファービスで働いてるのが好きなの。みんなと働いていたいけど……仕方ないよ」

可奈ちゃんは納得がいかないとばかりに鼻息荒く私を説得してくれるが私は首を縦に振れない。
絶対的権力の父には逆らえないから。

「紗夜ちゃん、よく考えてみて。紗夜ちゃんの人生だよ。そんなことでいいの?」

可奈ちゃんの言葉が私のお腹に響いてくる。

わかってる。
こんな理不尽なこと跳ね除けたいに決まってる。
でもお兄ちゃんのことを考えると少しでも家業の役に立ってあげたいとも思ってしまう。

「可奈ちゃん、ありがとう。もう少し考えてみるね」

そうは言ったけど考える余地もない。
きっと可奈ちゃんもそう思ったのだろう。

「ねぇ、困ったら本当に言ってね。私が助けてあげるから。絶対だからね。私が知らないまま紗夜ちゃんが苦しむのは嫌だからね」

そんな優しい言葉をかけてくれて私は目頭を熱くした。
指で目元を拭い、笑って可奈ちゃんに抱きついた。

「可奈ちゃん、ありがとう。すごく嬉しい」

私たちは仕事に戻ったが、可奈ちゃんと話したことで少し気持ちが吐き出せ、楽になった。
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