一夜限りのはずだったのに実は愛されてました
代行に車を頼むと私たちはタクシーに乗り込み彼のマンションへ向かった。

タクシーの中でもずっと手を繋いでいた。
彼の手はとても大きくて、私の手が小さく思えた。

無言のままタクシーに乗ること15分でマンションに着いた。
何度かエントランスまで資料を取りに来たことがあるが中に入るのは初めて。
エントランスを通り、エレベーターでカードキーを差し込むと勝手にその階に行くシステムらしい。
そのため別の階には出入りできない、プライバシーの守られた造りになっていることがわかる。
エレベーターはぐんぐんと上昇し、20階で止まった。
松下さんに手を引かれ、私は玄関に案内された。
部屋の中へ通された瞬間、靴も脱がずに彼は私をドアに押し付け、貪るようにキスをした。
さっき初めて経験したばかりのキスだったが、私も彼と唇が離れていたことが寂しかった。それに彼に求められることが心の底から嬉しかった。

私たちはそのままもつれあうようにベッドルームへ入った。
松下さんは着ていたスーツを脱ぎ捨てると、私の着ていたスーツをもどかしそうに脱がせ始めた。
あっという間に何もつけていない状態になり、恥ずかしさが込み上げてくるが、そう思ったのも一瞬だった。
彼に一晩中翻弄させられた。でも人肌をこんなに愛おしいと思ったことはなかった。彼のそばでずっとこうしていたい、腕の中にいたいと思った。
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