人助けをしたら人気俳優との同居が始まりました
自覚した想い

1

 太郎と海に行ってから、自分でコントロールが効かないくらい、太郎のことを1人の男性として意識するようになった。
 話していて楽しいのは以前からだったけれど、この頃は2人きりでいるとドキドキするようになった。 
 例えば夜、國吉と絹江が自分たちの部屋に行ってしまってリビングに2人きりで残されると、途端に落ち着かなくなる。
 太郎はまるでそんな叶恵を見透かすように、隣に座って頭を撫でたり、肩を抱いたり、手を握ったりしてくる。
 そしてそうされるのがいやではないことに、むしろドキドキするけど幸せな気持ちになることに、戸惑っていた。
 自分の中にあるこの想いを認めるわけにはいかない。
 たとえ認めたとしても、住む世界が違う以上、うまくいくわけがない。
 だから認めてはいけないのだ。

「叶恵さん、最近なんだか元気ないよね。何かあったの?」

 海に行って6日後の土曜日。
 本来は休みだったが午前中に気になる患者の様子を見に病院に行き、帰宅してソファに座る太郎の隣でボーっとしていると、太郎に心配そうに顔をのぞきこまれた。
 國吉と絹江は老人会のカラオケ大会に行っていて、今は太郎と2人きりだ。

「何もないよ。そんなに元気ないように見える? 心配かけてごめん」

 まさか太郎のことで悩んでいるとは言えずに無理やり笑うと、隣に座る太郎に引き寄せられ、肩を抱かれた。
 離れなきゃいけないと、そうされるたびにいつも思う。
 でも太郎の体温は心地よくて、どれだけドキドキしていても離れることができない。

「もしかしたら、そろそろ俺がいる生活に疲れてきたのかもね」
「太郎くんのせいじゃないよ。太郎くんがいて疲れたって思ったことないもん。このところちょっと仕事が忙しかったから、たぶんそのせいだと思う」
「そういえば、昨日も一昨日も帰りが遅かったよね」
「わざわざ迎えに来てくれなくてよかったのに。自転車なら5分だよ。そのせいで朝は送ってもらうことになったし。ごめんね」

 昨日も一昨日も、急患や病棟患者の緊急オペなどで残業だった。
 仕事が終わったら電話するようにと太郎が連絡を入れていたのでそのとおりにすると、昨日も一昨日も車で迎えに来たのだ。
 おかげでさっき帰ってくるまで、病院に自転車を置いたままだった。

「俺が好きでやったことだから謝らないでよ。夏は不審者が増えるっていうから、いくら自転車でも心配だったんだもん。それに叶恵さんも律義に電話くれるからさ。俺に電話せずに自転車で帰ってきてもよかったのに」
「電話せずに帰ってきたらお仕置きするからね、って脅し文句言ったのは誰よ?」
「だって、そう言えば絶対に電話くれると思ったから。お詫びに今日は甘やかしてあげるよ。あ、ちょっと待ってて」
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