人助けをしたら人気俳優との同居が始まりました

4

 つけ入る隙どころか、今の叶恵の心のほとんどは太郎に占拠されている。
 でもやっぱりどこかでブレーキがかかるのだ。
 本当に太郎のような有名人が自分を好きになるだろうかと、信じきれないでいる。

「あれ? 寝ちゃった?」
「ぐー」
「ハハハ。本当に寝てても狸寝入りでもいいよ。否定しないってことは肯定だって分かってるから。俺は、叶恵さんがその人との別れを選んでくれたことに感謝してる。でなきゃ俺たちは出会えなかったんだから。……ねえ、叶恵さん、これだけは分かって。俺はただ仕事が俳優ってだけで、それ以外は普通の30歳の独身の男だよ。好きな人にいつでもキスできるこのシチュエーションで何もしない、我慢強いただの男だよ」

 我慢しなくていいのに。
 一瞬でもそう思った自分に驚いた。
 アイマスクをしていてよかったと心の底から思った。
 もしも目が合っていたら、太郎はきっとこの思いに気づいたはずだから。

「叶恵さんが俺のことを好きになれないっていうなら諦めるけど、もしも俺のことを少しでも好きだと思うなら、俺の気持ちだけは信じて。さっきの約束破るけど、俺がどれだけ叶恵さんを好きか、今から証明してあげる」
「証め……、んっ……」

 言いかけた言葉は、太郎のキスに飲み込まれる。
 慌てて突き放そうとするけれど、上下の唇を吸われ、するりと入り込んできた舌で口蓋を余すことなく探られる頃には、抵抗する力を奪われていた。

「……んぁ、あっ……」

 吸い出された舌を甘噛みされ、やっと解放されたときには頭がぼーっとなっていた。

「たろ、くん……」
「そんなエロい声で名前呼ばないの」

 苦笑とともに、チュッとリップ音を立てたキスが降ってくる。

「ねえ、もしかしてさっき、我慢しなくていいのにって思った?」
「……」
「否定しないってことは図星かな。……仕方ない。叶恵さんの気持ちの整理がつくまで、あともう少し待ってあげるよ。ただし俺もそろそろ我慢の限界だから、好きじゃないなら早めにはっきりそう言ってね」

 そんなこと、言えるわけがない。
 いくら認めてはいけないと自分の想いに見て見ぬふりをしても、これほどまでに育ってしまったこの感情をごまかすことは、もうできない。
 太郎のことが好きだ。
 このままずっとそばにいてほしいと思うくらいに……。
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