人助けをしたら人気俳優との同居が始まりました

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 叶恵の予想は外れていた。
 人気俳優でもあるその人物は、逃げ帰るどころか叶恵の祖父母とまるで本当の孫のように打ち解けていた。

「あ、絹江(きぬえ)さん。俺が運ぶよ」

 湯呑みを4つのせたお盆を運んで来ようとする叶恵の祖母、絹江のために、蓮はさっと立ち上がってお盆を受け取る。

「ありがとう、蓮くん」
「ああ、蓮くん。ついでにそこの煎餅も持ってきてくれ」
國吉(くによし)さん、もうすぐ夕飯だよ。今食べるのはやめておいたら?」

 叶恵の祖父、國吉の頼みに、蓮は苦笑とともに注意する。

「そうだな。食後まで我慢するか」

 目の前で繰り広げられる光景に、叶恵の頭は混乱していた。
 ここは確かに自分の家で、2人の孫は自分1人のはずだ。
 それとも隠し子ならぬ隠し孫がいて、それが蓮だとでもいうのだろうか。
 そんなはずはないが、仮にそうだと言われたら納得してしまいそうなほど、蓮は叶恵の祖父母になじんでいた。

「叶恵さん」
「は、はい」

 気持ちを落ち着かせようと、蓮が運んできてくれた湯呑みに手を伸ばしたタイミングで名前を呼ばれ、反射的に返事して顔を上げる。

「昨夜は大変なご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした。そして介抱してくれて、ありがとうございました」
「それは当然というか、なんというか……。とにかく、気にしないでください」
「いえ。もしも警察に通報されていたら、今頃は考えるのも恐ろしいほどの騒動になっていたと思います。だから本当に感謝しています」
「あの。変なこと聞きますけど、そっくりさんとかではないんですよね? 本物の、俳優の山内蓮さんなんですよね?」
「はい。それは間違いありません。叶恵さんが言う、本物です」

 いっそ、そっくりさんだと言ってほしかった。
 そしたらがっかりするかもしれないけれど、少なくとも今よりは絶対に冷静になれたはずだ。

「山内さんみたいな有名な方が、どうしてうちの前で酔っ払って寝てたんですか」
「それがお恥ずかしい話なんですが、昨日から長期休暇をもらったことで、昨夜は羽目を外してこの近くのバーで飲み過ぎてしまって、店を出てからの記憶がまったくなくてですね……。自分でも、なぜお宅の前で寝ていたのか分からないんです。それより叶恵さんこそ、どうして警察に通報するなり、救急車を呼ぶなりしなかったんですか」
「そうしようとも思ったんですが、身分証が見当たらなくて、警察に通報しても警察の方が困るんじゃないかと思ったんです。それに救急車なんて呼んだら、うちの病院の夜勤者の仕事を増やすだけですから」
「叶恵さんは優しいんですね。身元の知れない酔っ払いの世話を、他人のことを考えて自分で引き受けるなんて、そうそうできることじゃないですよね。僕が変質者とか犯罪者だったらどうするつもりだったんですか」
「あれだけ泥酔してる人に、何かできるとは思えなかったんです。それに、うちで介抱してあげるように言ったのは祖父ですから」

 もちろん叶恵だって、蓮が言ったような可能性を考えなかったわけではない。
 でも目が覚めてすぐに悪いことができるとは思えないほどの、それは見事な泥酔ぶりだったのだ。

「國吉さんも絹江さんも、本当にありがとうございました」
「お礼はもう聞き飽きたよ。昨夜のことは早く忘れて、ゆっくりしていきなさい」
「そうよ。うちでいいなら好きなだけいてちょうだい。さっきも言ったけれど、蓮くんさえ良ければお休みの間中いてくれていいのよ」
「本当に休みの間中泊まってもいいの?」
「もちろんだよ。そう言ってるじゃないか」
「は⁉」
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