夏がくれた奇跡
目の前を流れるどこまでも透き通った川の水面に、不満げな顔をした俺が映る。


「あっちー!」


 じりじりと照りつける夏の日差しは、すべてを焼けこがそうとするかのよう。できることなら今すぐにでも川に飛び込みたいくらいだ。


「日陰行く? それともやっぱりこの暑さは耐えられない?」


 俺のすぐ隣に座っていた女──相川さくらが挑戦的な瞳で俺を試すようにして尋ねてくる。


 こんなに汗をだらだら流す俺とは対照的に、涼しげな顔をしているのが腹立たしい。


「耐えられないって言ったら、日陰行っていいのかよ」


「いやだ。行かせてあげない」


 さくらはにっこりと笑って答えた。日向の方が君を綺麗に撮れるから、と言う。


「お前から言ったんだろ。はあ、相変わらず上から目線なやつ。このわがまま女め」


 そう言いながらも俺は彼女の言うことはなんでも聞いてしまうのだ。


 ふだんは反抗期真っ盛りだと親に嘆かれる男子高校生なのにな。


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