独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 ならば人生で初めての失敗を体験し、その超人じみた感覚に頼ることが出来ず、自分の中に存在していた成功の指針を失った今の奏一はさぞ不安な日々を送っているだろう。

 と思う結子だが、意外なことに奏一は案外けろりとしていた。

「でも別に、負けたこと自体は悔しいって思ってなくて」
「え、そうなの?」
「うん。だって兄さんはそれだけの積み重ねをしてきたから。普通の人の二倍も三倍も努力して、自分の力で自分の土台を作り上げてきた。その上で今があるって知ってるから、あんまり悔しいとは思わないかな」

 奏一の言葉に『なるほど』と納得する。確かに響一は見た目には涼しく振る舞うが、その影では気の遠くなるような努力を重ねる人だ。

 奏一は自分がその努力を怠ってきたから、それが今回の結果に繋がっていると思うのだろう。その言い分が分からないことも無い。

「それに兄さん、結婚してからすごいやる気に満ち溢れてるんだ。俺、今の兄さんには勝てない気がするなーって思ってて」
「……」

 さらに奏一が何かを悟ったように諦めの言葉を口にする。

 その言葉と困ったように笑う笑顔を見て、結子はむうっと頬を膨らませた。少し不機嫌になるついでに、奏一の左の頬をむにっと摘まむ。摘まんで、ちょっと横に引っ張ってしまう。

「奏一さんが悔しくなくても、私は悔しいけど?」
「……ゆいこ?」
「だってそれだと、響兄さまの方が幸せだから勝ってるみたいじゃない」

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