捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】

「確かに、顔は俺好みだが。ここまで貧相な胸ではなぁ。この召喚も失敗だな」

「ま、またでございますかッ」

 『殿下』の言葉を聞いた臣下とおぼしき恰幅のいいおじさんが、疲労感漂う顔に悲壮感まで滲ませている。

 周囲の臣下たちもそろって肩を落として落胆している様子だが、こっちはあまりのショックでそれどころじゃない。

 そりゃ、初対面で『貧相な胸』なんて失礼極まりないことを言われたんだから、無理もない。

 ショックで呆然としている私の眼前で殿下と臣下のおじさんとのやりとりが続いている。

「なんだ、俺の言うことが聞けないというのか? お前が俺の言うとおりにできないだけではないか。それとも、その娘と一緒にお前もお役御免になりたいか?」

「とっ、とんでもございませんッ。すぐに召喚の準備にとりかかります」

 殿下が不遜な物言いで放った『お役御免』という言葉に臣下のおじさんが慄き青ざめる。

 ーーん? 今、『その娘と一緒に』って言わなかった?

 ぼんやりとそんなことを考えていると、臣下のおじさんが大慌てで周囲の部下と思われる男らに指示を出し始めた。

 状況が飲み込めず棒立ち状態の私に向けて、殿下から穏やかな口調とは裏腹な実に冷ややかな声音が放たれた。

「そこの娘。『聖女』として『召喚』しておいて悪いが、もうよい。『追放』だ。どこへでも自由に行くがよい」

 未だ、にわかに信じがたいが。この様子から察するに。

 どうやら私はどういうわけか異世界に転移してしまったようだ。

 それだけでも驚きなのに、一方的に『聖女』として『召喚』された挙げ句に、『貧乳』を理由に『追放』されてしまうらしい。

 ーーえ!? いきなり異世界に召喚されて追放って、私、どうなっちゃうの? 元の世界に返してくれないの?

「元の世界に戻してください。どこへでも自由にって言われても困りますッ!」

 殿下の声で我に返り、『貧乳』といわれて落胆している場合ではないと、とっさに傍にいた臣下のおじさんに必死に縋りつく。

 けれどもすぐに駆け寄ってきた厳つい顔つきの屈強な男らに私はあっけなく捕獲されお城から摘まみ出されてしまうのだった。

< 4 / 105 >

この作品をシェア

pagetop