捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
ただでさえ、こんなにもくっついているのだ。
様々なことが密着した身体を通して伝わってきてしまう。
長身のレオンは見た感じスラッとしてて細身だけれど、意外にも鍛えられているようで、しなやかな筋肉に覆われた精悍な身体つきをしているようだ。
こんなの、したくなくても意識してしまう。
心臓だってこんなにも暴れ回っていて、今にも口から飛び出してしまいそうだ。
ーーこれじゃあ王都どころか、一時間もしないうちに、天国行きになってしまう。
どうにも堪りかねた私は、天国行きを阻止するためにも、今一度レオンに向けて声を放ってみることに。
「////……わ、わかったから。せめて、この姿勢なんとかならない?」
「仕方ないですねぇ。では、どうぞ、お嬢様。これでよろしいでしょうか?」
「////ーーッ!?」
そうしたら実にあっさりと、横抱きの体勢からレオンの前で馬に跨がる体勢へと変えてくれた。
けれど今度は、少し畏まった口調で『お嬢様』呼びまでお見舞いされて、背後からしっかりと抱きしめられているような体勢となってしまっている。
しかも耳元を擽るようにして、なんとも心地いいあの甘やかな声音で。
「どうしました? お嬢様。耳どころか、項まで真っ赤に染まってらっしゃいますよ。もしかして、お熱でもございますか?」
そんな風に執事仕様の丁寧な口調で囁かれてしまっては堪らない。
どうしてこのようなことになっているかって?
それは、村に薪を届けて王都に向けて出発する際のことだ。
靴擦れしてしまった私に気づいたレオンがその応急処置をしてくれて、いよいよ出発という段になって。
『ノゾミ、ここからはどんなことが起こってもいいように、ノゾミは隣国から王都に観光に来た貴族のご令嬢で、僕はノゾミに仕える執事という設定でいくから。いいね?』
そういって提案してきたレオンの言葉により、こういう設定になってしまっている。
勿論、昨夜の打ち合わせの際と同じ、ご令嬢のような姿の私に合わせた設定なのだろうが、それに合わせて、レオンも執事仕様の黒い装いに身を包んでいる。
それがまた似合いすぎるくらいに似合っているものだから、その姿に私の胸はドキドキしっぱなしだった。
「////……ちょっと、レオン。擽ったいでしょ」
「それはそれは申し訳ございません。お嬢様があんまり可愛い反応をされるものですからつい」
そんな私の心情を知ってか知らずか、はたまた執事仕様の設定がただ単に気に入っているだけなのか、慣れた手つきで手綱を操るレオンはやけにご機嫌なご様子だ。