捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
私は、そんなレオンに釘付け状態だ。
夢現でぽーっとしている私に、レオンがにこやかに微笑んでゆっくりと近づいてくる。
ーーなんだか夢みたい。もしかしてあの夢って予知夢だったのかなぁ。
ふとそんなことを頭の片隅で思っていたせいか、夢に出てきた王子様の姿が鮮明に蘇ってくる。
そこでハッとした私は我を取り戻した。
ーー違う。これは夢じゃない。現実だ。
このまま流されたら後戻りできなくなってしまう。
今まさに私に口づけようとしているレオンに向けて、必死に声を紡ぎ出す。
「やっぱりダメッ、待って!」
「ノゾミの気持ち、僕は理解しているつもりだよ。あとのことは、これから一緒にゆっくり考えていこう? きっといい方法が見つかるはずだよ。だから、今だけは、なにも考えずに、僕のことだけを見ていて欲しい。僕はノゾミのことをもっともっと知りたいんだ。それでも駄目?」
「……え」
「やっぱり、僕のことがそれほど好きじゃない? それとも獣人の血を受け継いだ僕のことは受け入れられない?」
けれども、首の皮一枚でどうにか繋ぎ止めている頼りない理性に、揺さぶりでもかけるようにして、レオンの揺るぎのない声音が畳みかけてくる。
好きな人にそこまで言われて、拒否できる人がいるなら、お目にかかってみたいものだ。
もしかしたら広い世の中には、そういう人もいるのかもしれないが、私には無理だった。
「そ、そんなことない。私だって、レオンのこと、もっともっと知りたいって思ってる」
気づけば、心のままに応えていて。私の言葉を聞き届けたレオンは。
「ノゾミが僕と同じ想いでいてくれたなんて。本当に、夢みたいだ。ノゾミにならなんだって教えてあげるよ。だから、今だけは、僕が何処の誰とかいうのも忘れて、ノゾミが名付けくれた、レオンである僕のことだけを見ていて欲しい」
心底嬉しそうに、蕩けるような微笑を綻ばせ、甘やかな声音で囁いてくれた。
この世の者とは思えないほどに美しい妖艶なレオンの姿に魅入られたように、私は、素直にコクンと顎を引くことしかできないでいる。
そんな私は、心のなかで……。
レオンの言葉同様、今この瞬間だけは、自分が追われる身だとか、レオンが誰であるだとか、そんなことなど関係なく、お互いを想い合っているこの気持ちを大事にしたい。
これからなにがあったとしても、この夜の想い出さえあれば、乗り越えていける。
ーーたとえひとりになったとしても、きっと。
そういって、ひっそりと自分に言い聞かせていたのだった。