捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
レオンは国交が禁じられているのに、わざわざどうしてこの国に? それにどうやって?
あぁ、だから精霊の森を抜けてきたということだろうか? 近道だとも言っていたし。
だとしても、危険をおかしてまで一体何のために?
思考に耽っていた私の耳に、今度は新たな三つの情報が飛び込んできた。
一つは、モンターニャ王国からの密入国者が二人(男)いて、現在逃亡中であること。
もう一つは、その逃亡者は、追放された聖女を探すのが目的であるらしいこと。
最後の一つは、そのうちの一人は、ありとあらゆるものに姿を変える、変身魔法を得意とするらしいこと、だった。
……それって、もしかしてレオンのことなんじゃ。
だとしたら、最初から私の能力が目的で近づいたってこと?
ーー否、違う。だってレオンは記憶を失っていたんだから、そんなはずはない。
……けど今は、記憶を取り戻しているようだし。
そういえば以前、レオンが言ってた、
『ノゾミの傍にいると、こう、身体の奥底から内なるパワーが漲ってくるような、そんな気がするんだ。やっぱり、聖女であるノゾミに秘められているという『驚異的な力』は偉大なんだろうね』
この言葉を聞いた際、私自身にではなく、『聖女である私』に惹かれているだけなんだ。そう思ったこともあったっけ。
もしかして私の能力が目的で、それを得ようとして、昨夜、私と一刻も早く身体を重ねる必要があったってこと……?
そこまで思考が行き着いたところで、目の前が真っ暗になってしまう。
この世からすべての色が失われてしまったかのようなモノクロの景色のなかで、一点に視線を集中させたまま呆然としていると、レオンの優しい甘やかな声音が耳を擽った。
「ノゾミ。ずいぶんと待たせてしまってごめんね。待たせてしまった間、退屈じゃなかった?」
振り返るとそこには、見かけは執事仕様であるものの、いつもと何ら変わらない様子のレオンの姿があって、蕩けるような微笑と綺麗なサファイアブルーの綺麗な瞳とを向けてくれている。
そのすべてが偽りだなんて、そんな風には見えないし。そんなこと思いたくもない。
ーーレオンのことを信じたい。
そう思うのに、さっき知り得た情報が邪魔をする。
信じたいという気持ちと相反する気持ちとがせめぎ合う。
そんな複雑な心情を胸の奥底に無理矢理押しやって、私は平静を装うことに徹した。
「う、ううん。全然。それよりありがとう」
「お安いご用でございますよ。お嬢様。ではでは参りましょうか?」
「うん」
ーー何があっても、レオンのことを信じる。
そうやって何度も何度も、私は心の中で必死になって己に言い聞かせていた。