雪と虎
まく

冬はよく雪が降る場所から来たのだ。わたしたちは迷いなく進む。

耳も鼻先も肺に入る空気も冷たい。
唯一、繋がれた手だけが温かい。

「し……知ってるって?」
「お前はわざわざ出てきた。喧嘩の渦中の場所に」
「分かってたの?」
「俺はその怪我に関して、お前に謝ったことがあったか?」

そういえば、ない。
いや、謝る必要はないけれど。

「感謝はしてる」

虎太朗はこちらを振り向いた。

「依知が居なかったら、俺は死んでた」

死んでた、という言葉に心臓が掴まれる。

死なないでよ。

ずっと……。

< 41 / 52 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop