美琴ちゃん、大丈夫?

最後の試合、ある夜の景色、ホームラン。

「青、上段蹴り1本!判定、青!!」






「ハァ、ハァ、…押忍!」






尾上君が、最後の礼をして下がった。






相手側は飛び跳ねて喜ぶ気配もなく、勝って当たり前、という様子で片付けはじめる。



地区大会3回戦目。


大浦高校空手道部は、唯一勝ち残っていた尾上君が優勝候補とされてる佐藤君に負けて、今、3年生最後の大会を終えた。





尾上君がやるせない表情で戻ってきて、みんなに肩をたたかれる。


「…柊。」


ジャイアンみたいに大きな身体の尾上君が、目に涙をためている。



「…」



右腕に大げさなギプスをつけた私は、今大会、黙って見ていることしかできなかった。




「…泣かないで。尾上くん。…川崎も。」


「…ごめん。柊。ごめん。」



普段は男勝りな川崎が、弱々しく私の首に抱きついて泣きじゃくる。


「…川崎。何度も言ってるでしょ。川崎たちのせいじゃないよ。」


「…でも…、でもッ!」


「私、最初は高校で空手道部入るか迷ったんだよね。」


突然昔話を始める私にみんなが注目する。


「…でも、入ってよかった。
私、こんな風に誰かが自分のために泣いてくれたことなかった。
私も誰かのために悔しくて泣いたの、初めてかもしれない。
みんなと仲間になれてよかった。
みんなと一緒に戦えて、嬉しかった。」


涙がぽたぽた落ちていく。



「みんなのおかげで楽しかった。今日までありがとう。」



笑顔でみんなにお礼を言った。



「…うっ、…グスッ…柊ぃ…!」
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