秘書室の悪魔とお見合いをしたら〜クールな秘書と偽装結婚することになり、いつの間にか愛でられていました〜


「いやー、実に楽しいねぇー。あはは」

 そうやって笑ったのははじめ社長だけで、会食の感想を言っているのか。はたまた、去っていく車に「コラっ! グレン!」と文句を放つクリスと。なぜか黒いモヤモヤを漂わせながら、私から名刺を回収し、自分のポケットに入れてしまう智秋さん――という若干理解不能なカオス状態にある現在の構図の事をいっているのかは分からない。

 これを期に、グレン氏が質のいいグルメブロガーになったという話は…また別の話――だ。



「じゃあ、二人とも、お疲れ様」

 その後、気を利かせてくれた社長に甘え、漆鷲家の迎えの車に乗り込む社長とクリスを見送る私たち。

「……おやすみ、チアキ、サクラ」

 乗り込む直前クリスが、なんだか私たちのことを、食い入るようにジーッと見つめていたような気もしたけれど――結局、何も言わずに帰って行った。

『諦められるわけ……ないよ』
 
 ーークリスなりに、先日のことを……悩んでいるのだろうか。何があったのか急に忙しくなった彼と顔を合わせるのは、それ以来のこと。
 少しだけひっかかりを覚える視線だった。


 そんなふうにして、社長たちの乗る車が見えなくなった途端、

「桜さん」

 ふいに、隣にいた智秋さんから呼ばれて顔を上げる。

「このあと……ちょっと、寄りたいところあるので、付きあってもらえますか?」
 
 へ? 今から……?

「構いませんが――」

 一体どこに……?

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