何か用ですか。
 彼はそう尋ねたかったのだが、もちろん話すことなどできない。猿轡がそれを邪魔しているからだ。

 その人は怪訝そうに顔をしかめると猿轡をはじめ、縛られていた両手足までをもほどいてくれた。
 そして、尋ねる。
「お前はなんでそんな格好で、そこにいたのだ」

 見知らぬ女性。

 はぁ、と少年は思った。きっとこの人はこんなところに猿轡をされ、両手足を縛られていた自分を不思議に思ったに違いない。何しろ今は真夜中であり、ここは神社の境内。
 どこからどう見ても怪しいだろう。人さらいにあったのか、とか、そういったことを考えているのかもしれない。

 だが、この村の人ならば、自分がなぜこんなところにいなければならないのか、よく知っているはず。人さらいにあったわけではない、ということも。


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