転生なんかしなくても勇者になれる!
レベル1 旅立ち
「本当に行くのか?」
「母さん、俺もう前歯どころじゃなくて全部の歯が生え揃ったよ?」
あの日とは真逆で今は母さんが俺に抱き着いている。
「アタシ、あの日あんたが魔王を倒すなんて言い出してからずっとあんたを失うのが怖かったよ。あんたは最後の家族なんだ。死なないで必ず帰ってくることを約束してくれ?」
「母さん」
俺の制止を無視して母さんは話し続ける。
「魔王討伐より自分の命が優先だよ?」
「母さん?」
「今どきは何でも転生してくる世の中なんだから」
「母さん」
「最悪魔王討伐なんて何の力を持たないあんたより、転生してきた奴らに任しておけばいいんだよ?」
「かーさん」
俺は母さんの体を引き剥がして、今度は目を見て呼んだ。
母さんは涙で潤ました瞳で俺を見つめた。
「そうだね。選ばれたものしか魔王を倒せないなんて考えはもう古いね?」
涙を拭いながら言う母さんを俺は抱きしめる。
「そう。だから農民の俺でも勇者になれるし、魔王も倒せる。安心して。無理はしないって約束するから。」
俺は、もう一度母さんの目を見て言った。
「約束だよ?」
「うん。約束。」
俺は村独自の指切りを母さんとして荷物を担いだ。
「そんなに少ない荷物で大丈夫?」
「かーーさん?」
「そうだね。これ以上は何も言わないよ」
口チャックのジェスチャーをした母さんを見て、俺は覚悟を決めて進み始めた。
決して後ろは振り返らないと思っていたが、後ろから母さんの声が聞こえて振り返ってしまった。
「母さん!ありがとう!」
振り返って一礼した俺は次こそ振り返らずに町を出た。
隣の町まではそれほど距離もなく、魔物が居ても避けながら辿り着くことが出来た。
途中、魔法が暴走している子供が仲間にタコ殴りにされている光景を見た俺は、仲間選びだけは真剣にやろうと思い、到着するや否やギルド募集と書かれた求人を漁っていた。
「どこもかしこも転生してたら尚良とかばっかだな。転生してれば必ずしも強いとは限らないだろ」
なんて自分が入れそうなギルドが見つからない事へ対する鬱憤を違う形で吐き出していた。
そんな俺を見ていたお兄さんが突如話しかけてきた。
「お!兄ちゃんもしかして勇者か?ギルド探してんならうちどうよ?こないだ勇者死んだばっかで困ってんのよ!」
「すみませんが、仲間を大切にしていない人とは組む気はありません」
あまりに気さくすぎる話し方に仲間を駒としか思っていないのだなと感じ俺は一礼して断った。
「あぁ!?この俺が誘ってやったのになんだその言い方!?」
お兄さんがいきなり怒り出し、周りは一度驚いたが怒っているお兄さんの顔を見るなり呆れ顔をしていた。
きっとこいつは何度もここで同じことを繰り返しているんだろう。
俺が相手にしたら負けだと思いその場を離れようとすると、男は俺のポケットから手帳を取り上げた。
「よっと!」
「ちょっと!返してください!」
俺が取り返そうと右往左往すると、そいつも面白がってあれよあれよと踊らされた。
取れると思い飛びつくと、華麗に避けられ俺はそのままの勢いで壁にぶつかった。
「お兄さんよっわ!ギルドに入れるか俺が見極めてやんよ!」
そう言って男は俺の手帳の中を覗いて盛大に吹き出した。
「お兄さん勇者じゃなくて戦士なの!?冗談は見た目だけにしてくれよ!」
男がそう叫ぶと、先程まで全く関心を持っていなかった周りの連中も一斉に笑い始めた。
「お兄さんよ、森に居る小ボスも倒せてないんじゃ話になんないよ。」
男は俺の肩に手を置いて小さく耳打ちをした。
「こんなんで俺のお誘い断るなんて調子乗り過ぎ」
それに対して俺は何も言えなかった。
鎖国された町を今日出たばかりの俺にはこの世界の事は何も分からなかった。
今までも知る手段が無かったからだ。
知っているのは、外には魔物が居て危ないという事と町を歩いているギルドの事だけ。
何かを言い返すには俺は知識不足だ。
ここに来る前にまずは情報集めが先だった。
浮足立っていた気持ちを現実に戻された俺は急に恥ずかしさを覚え投げられた手帳を拾い上げてすぐさま店を出た。
「お!ママのとこにでも帰んのか~?」
後ろから男の冷やかしが聞こえたが、聞こえないフリをして一度町を出た。
町から一番近いキャンプ跡地に着いた。
俺は先程の恥ずかしさを拭えないままの気持ちでキャンプ跡地に持ってきた道具を使って火を起こした。
「確かに俺が悪かったがもうあの町には戻れない…。きっと今頃噂が広がって誰もギルドに入れてくれないよな。」
丸太に寄りかかり星空を見上げながらこれからの心配をしていると、どこからか怪しげな音が聞こえてきた。
魔物か?
俺は持ってきた剣を抜いて構える。
ガサガサ。
音のする方へ振り返り、再度構えなおす。
ガサガサ。
……。
ガサガサ!!!
「人間!?」
草むらから姿を現したのは紛れもない人間だった。
「だ、大丈夫か?」
夜なので見間違いかもしれないと思い、相手に聞こえるかどうかのひ弱な声で呼びかける。
「だ、だいじょうぶですぅ……。」
俺の問いかけに対し、相手もひ弱な声で応答した。
人間だと確認が取れたので俺はすぐに駆け寄り魔物が寄り付かないキャンプ地まで連れてきた。
「怪我とかしてないか?」
「大丈夫です……。」
「腹は?喉は?」
俺が質問攻めにしてしまったので気弱なその子は目を回しながらあたふたしてしまった。
「あ、すまない。取り合えず水を……。」
俺が水を飲ませようとすると気弱なその子は「自分で飲めます」と水を受け取った。
少量だけ飲むとすぐに俺に返してくれた。
「もう大丈夫か?」
「はい。ご迷惑をおかけしてしまいすみませんでした。おかげで助かりました。ありがとうございます。」
その子は律儀にお礼を言うとすぐにどこかへ行こうと立ち上がった。
「も、もう行くのか?」
俺も立ち上がって引き留める。
「はい。助けてくださったのは感謝いたしますが僕も一人前の賢者になるためには沢山の魔物を倒さないといけないので……。」
その子は申し訳なさそうに一礼した。
きっとこの子は本当にすぐにでも強くなりたいんだ。
こんな所で途方に暮れてる俺とは大違い。
「そ、そっかぁ。じゃ、じゃあ、一つだけ聞いてもいいか?」
俺は気持ち悪いくらいに挙動不審になりながら声をかけた。
「何ですか?」
「森に居る小ボスについて教えて欲しいんだが……。」
俺が聞くと、その子は一度肩を跳ねさせてから一旦深呼吸して話し出す。
「小ボスってことは、まだ職業開放出来ていないってことですか?」
「そうなんだ!今日町から出てきたばかりで何も知らないんだ。何でもいいから情報が欲しくて……。」
俺は言い終わるころに町でのやり取りを思い出した。
もしかして、こいつも俺を馬鹿にする?
この世界では情報を得ることさえも馬鹿にされるのか?
こいつもさっき一人前の賢者とか言ってたからその職業開放とか言うやつを終わらせているんだろうな。
「それだったら、僕が今出てきたところの道をずっと真っすぐ進んだところに居ます。」
俺の心配とは裏腹にこの子は優しく道を教えてくれた。
「そ、そうか!あの道を、真っすぐ…。」
先程この子が出てきた草むらの方を見ると、そこには道といった道は無かった。
「道……。」
「あ…えっと、あの…すみません…。僕、方向音痴で…ずっと道を歩いてると思ってました…。」
その子は明らかに落ち込んだ表情を見せた。
「いや、あの…明日の朝に探してみるよ!何だったら一緒に……」
「いや、一緒はダメです!!!」
俺の言葉を遮ってその子は言った。
「そ、そうだよな!初対面でいきなり変なこと言ってごめんな!」
俺は先程の恥ずかしさも思い出して一気に顔を紅潮させた。
「い、いえ。僕が悪いんです…」
その子はそれだけ言って「これで」とその場を去ってしまった。
別にいきなり仲間が出来るとは思ってなかったけど、一人で旅をするのはこんなにも寂しいのか。
誰も居なくなったキャンプ場に焚火の音だけが響いた。
「本当に行くのか?」
「母さん、俺もう前歯どころじゃなくて全部の歯が生え揃ったよ?」
あの日とは真逆で今は母さんが俺に抱き着いている。
「アタシ、あの日あんたが魔王を倒すなんて言い出してからずっとあんたを失うのが怖かったよ。あんたは最後の家族なんだ。死なないで必ず帰ってくることを約束してくれ?」
「母さん」
俺の制止を無視して母さんは話し続ける。
「魔王討伐より自分の命が優先だよ?」
「母さん?」
「今どきは何でも転生してくる世の中なんだから」
「母さん」
「最悪魔王討伐なんて何の力を持たないあんたより、転生してきた奴らに任しておけばいいんだよ?」
「かーさん」
俺は母さんの体を引き剥がして、今度は目を見て呼んだ。
母さんは涙で潤ました瞳で俺を見つめた。
「そうだね。選ばれたものしか魔王を倒せないなんて考えはもう古いね?」
涙を拭いながら言う母さんを俺は抱きしめる。
「そう。だから農民の俺でも勇者になれるし、魔王も倒せる。安心して。無理はしないって約束するから。」
俺は、もう一度母さんの目を見て言った。
「約束だよ?」
「うん。約束。」
俺は村独自の指切りを母さんとして荷物を担いだ。
「そんなに少ない荷物で大丈夫?」
「かーーさん?」
「そうだね。これ以上は何も言わないよ」
口チャックのジェスチャーをした母さんを見て、俺は覚悟を決めて進み始めた。
決して後ろは振り返らないと思っていたが、後ろから母さんの声が聞こえて振り返ってしまった。
「母さん!ありがとう!」
振り返って一礼した俺は次こそ振り返らずに町を出た。
隣の町まではそれほど距離もなく、魔物が居ても避けながら辿り着くことが出来た。
途中、魔法が暴走している子供が仲間にタコ殴りにされている光景を見た俺は、仲間選びだけは真剣にやろうと思い、到着するや否やギルド募集と書かれた求人を漁っていた。
「どこもかしこも転生してたら尚良とかばっかだな。転生してれば必ずしも強いとは限らないだろ」
なんて自分が入れそうなギルドが見つからない事へ対する鬱憤を違う形で吐き出していた。
そんな俺を見ていたお兄さんが突如話しかけてきた。
「お!兄ちゃんもしかして勇者か?ギルド探してんならうちどうよ?こないだ勇者死んだばっかで困ってんのよ!」
「すみませんが、仲間を大切にしていない人とは組む気はありません」
あまりに気さくすぎる話し方に仲間を駒としか思っていないのだなと感じ俺は一礼して断った。
「あぁ!?この俺が誘ってやったのになんだその言い方!?」
お兄さんがいきなり怒り出し、周りは一度驚いたが怒っているお兄さんの顔を見るなり呆れ顔をしていた。
きっとこいつは何度もここで同じことを繰り返しているんだろう。
俺が相手にしたら負けだと思いその場を離れようとすると、男は俺のポケットから手帳を取り上げた。
「よっと!」
「ちょっと!返してください!」
俺が取り返そうと右往左往すると、そいつも面白がってあれよあれよと踊らされた。
取れると思い飛びつくと、華麗に避けられ俺はそのままの勢いで壁にぶつかった。
「お兄さんよっわ!ギルドに入れるか俺が見極めてやんよ!」
そう言って男は俺の手帳の中を覗いて盛大に吹き出した。
「お兄さん勇者じゃなくて戦士なの!?冗談は見た目だけにしてくれよ!」
男がそう叫ぶと、先程まで全く関心を持っていなかった周りの連中も一斉に笑い始めた。
「お兄さんよ、森に居る小ボスも倒せてないんじゃ話になんないよ。」
男は俺の肩に手を置いて小さく耳打ちをした。
「こんなんで俺のお誘い断るなんて調子乗り過ぎ」
それに対して俺は何も言えなかった。
鎖国された町を今日出たばかりの俺にはこの世界の事は何も分からなかった。
今までも知る手段が無かったからだ。
知っているのは、外には魔物が居て危ないという事と町を歩いているギルドの事だけ。
何かを言い返すには俺は知識不足だ。
ここに来る前にまずは情報集めが先だった。
浮足立っていた気持ちを現実に戻された俺は急に恥ずかしさを覚え投げられた手帳を拾い上げてすぐさま店を出た。
「お!ママのとこにでも帰んのか~?」
後ろから男の冷やかしが聞こえたが、聞こえないフリをして一度町を出た。
町から一番近いキャンプ跡地に着いた。
俺は先程の恥ずかしさを拭えないままの気持ちでキャンプ跡地に持ってきた道具を使って火を起こした。
「確かに俺が悪かったがもうあの町には戻れない…。きっと今頃噂が広がって誰もギルドに入れてくれないよな。」
丸太に寄りかかり星空を見上げながらこれからの心配をしていると、どこからか怪しげな音が聞こえてきた。
魔物か?
俺は持ってきた剣を抜いて構える。
ガサガサ。
音のする方へ振り返り、再度構えなおす。
ガサガサ。
……。
ガサガサ!!!
「人間!?」
草むらから姿を現したのは紛れもない人間だった。
「だ、大丈夫か?」
夜なので見間違いかもしれないと思い、相手に聞こえるかどうかのひ弱な声で呼びかける。
「だ、だいじょうぶですぅ……。」
俺の問いかけに対し、相手もひ弱な声で応答した。
人間だと確認が取れたので俺はすぐに駆け寄り魔物が寄り付かないキャンプ地まで連れてきた。
「怪我とかしてないか?」
「大丈夫です……。」
「腹は?喉は?」
俺が質問攻めにしてしまったので気弱なその子は目を回しながらあたふたしてしまった。
「あ、すまない。取り合えず水を……。」
俺が水を飲ませようとすると気弱なその子は「自分で飲めます」と水を受け取った。
少量だけ飲むとすぐに俺に返してくれた。
「もう大丈夫か?」
「はい。ご迷惑をおかけしてしまいすみませんでした。おかげで助かりました。ありがとうございます。」
その子は律儀にお礼を言うとすぐにどこかへ行こうと立ち上がった。
「も、もう行くのか?」
俺も立ち上がって引き留める。
「はい。助けてくださったのは感謝いたしますが僕も一人前の賢者になるためには沢山の魔物を倒さないといけないので……。」
その子は申し訳なさそうに一礼した。
きっとこの子は本当にすぐにでも強くなりたいんだ。
こんな所で途方に暮れてる俺とは大違い。
「そ、そっかぁ。じゃ、じゃあ、一つだけ聞いてもいいか?」
俺は気持ち悪いくらいに挙動不審になりながら声をかけた。
「何ですか?」
「森に居る小ボスについて教えて欲しいんだが……。」
俺が聞くと、その子は一度肩を跳ねさせてから一旦深呼吸して話し出す。
「小ボスってことは、まだ職業開放出来ていないってことですか?」
「そうなんだ!今日町から出てきたばかりで何も知らないんだ。何でもいいから情報が欲しくて……。」
俺は言い終わるころに町でのやり取りを思い出した。
もしかして、こいつも俺を馬鹿にする?
この世界では情報を得ることさえも馬鹿にされるのか?
こいつもさっき一人前の賢者とか言ってたからその職業開放とか言うやつを終わらせているんだろうな。
「それだったら、僕が今出てきたところの道をずっと真っすぐ進んだところに居ます。」
俺の心配とは裏腹にこの子は優しく道を教えてくれた。
「そ、そうか!あの道を、真っすぐ…。」
先程この子が出てきた草むらの方を見ると、そこには道といった道は無かった。
「道……。」
「あ…えっと、あの…すみません…。僕、方向音痴で…ずっと道を歩いてると思ってました…。」
その子は明らかに落ち込んだ表情を見せた。
「いや、あの…明日の朝に探してみるよ!何だったら一緒に……」
「いや、一緒はダメです!!!」
俺の言葉を遮ってその子は言った。
「そ、そうだよな!初対面でいきなり変なこと言ってごめんな!」
俺は先程の恥ずかしさも思い出して一気に顔を紅潮させた。
「い、いえ。僕が悪いんです…」
その子はそれだけ言って「これで」とその場を去ってしまった。
別にいきなり仲間が出来るとは思ってなかったけど、一人で旅をするのはこんなにも寂しいのか。
誰も居なくなったキャンプ場に焚火の音だけが響いた。