雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「外観は素敵よね」

 田舎にはめずらしい瀟洒な洋館で、雪をかぶった木々の間にそびえ立つ様子は、どこかヨーロッパの景色を思わせ、雰囲気はバッチリだ。
 いろんな角度から写真を撮っていると──

「安住! やっぱりいた!」

 突然、後ろから男性の声が響いて、飛び上がった。
 振り返ると、進藤の姿が見えた。

(やっぱり来たのね!)

 急いできたようで、息を弾ませ、くせ毛のふわふわの髪は乱れ、柴犬チックな丸い目はちょっと怒ってるみたい。

(抜けがけしたと思ってるのかな? まぁ、その通りだけど)

 進藤巧。同期で私が最もライバル視している男。
 受注も交渉も得意で、どんなに頑張ってもなかなか抜けない。
 悔しいことに見た目も抜群で、そのアイドルばりの容姿に社内の女子から「かわいい〜!」と騒ぎまくられている。
 二十七歳の男にかわいいってなによ?と思うけど、くっきり二重の丸っこい目とか、厚めのアヒル口とか、ヤツはあざと可愛い。ムカつく。

< 3 / 95 >

この作品をシェア

pagetop