雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
『お前、カニ好きだろ?』
『好きだけど。なんで知ってるのよ』
『前に同期会で、黙々とカニを食ってただろ。食べないヤツの分も奪って』
『それはもったいなかったからよ!』
『一人じゃ食べ切れないなぁ。せっかく新鮮で刺し身でも食えるやつなんたけど、腐らせちゃうかもな〜』

 それは聞き捨てならない。
 
『何時から?』
『二時はどうだ?』
『いいわよ』
『じゃあ、駅まで迎えに行くから、東改札口で待ってて』
『わかった』

 犬が尻尾を振っているスタンプが送られてきた。 
 自分でもワンコな自覚があるのかとちょっとおかしい。

(進藤に乗せられるのは癪に障るけど、カニを救出せねば!)

 明日の使命を思うと、顔が緩んでくる。
 私はご機嫌で資料作成を進めた。




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