極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 楽しそうな声が耳に届く。誰かが笑っている? もしかして……。

 そこではっきりと意識が覚醒し、目が覚めるとすぐ目の前に満面の笑みを浮かべている顔があった。

「きゃはは」と声をあげているのに目は閉じたままだ。どうやらまだ夢の中にいるらしい。

 私もつられて微笑む。

「なに? 楽しい夢でも見ているの?」

 柔らかいほっぺたをそっと突っつくとさらに彼女の口角が上がる。
 本当に可愛い。名前は茉奈(まな)。一歳半になる私の娘だ。生まれたときから色素の薄い髪は毛先がくるくると巻いていて、最近くくれるようになってきた。

 赤ちゃんだと思っていたこの子も自分の足でしっかり立って歩き、意思表示もそれなりにできるようになった。成長が嬉しい反面、寂しく感じるのは親のエゴかな。

 茉奈を起こさないようそっと布団から抜け出す。できればもう少し寝かせてあげたい。

 母親である私は杉井(すぎい)未亜、二十六歳。シングルマザーとして茉奈を育てている。

 茉奈と違いストレートの髪を肩下まで伸ばし、身長は百五十五センチで体形は平均的だ。妊娠してから背が縮んだ気がしたのは高さのあるヒールを履かなくなったからだと気づいた。

 母親としても大人の女性としてもしっかりしたいのに、どうも年齢より若く見られがちなのは顔の雰囲気か、メイクの問題か。

 奥二重でやや目尻が下がっているのは茉奈と共通していて、私たちの目元を見て、そっくりだとよく声をかけられる。父親と並んだら、またどんな感じなのかな。
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