君と奏でるトロイメライ



コンクールも受験も無事に終わり、あとは卒業式を迎えるだけのある日の放課後。二人は音楽室に赴いていた。

たくさんの思い出が詰まった音楽室、そしてグランドピアノ。

「ねえ、卒業記念にトロイメライ弾かない?」

「そうだな。これが山名と弾く最後のピアノか……」

「うん、そうだね……」

そんな会話をしてしまったために、二人の間にしんみりとした空気が流れる。

本当にこれが最後の演奏だ。コンクールがあるからという理由で切磋琢磨してきた時間も、卒業を控えているだけの二人にはもう必要がなくなった。

春花は胸の辺りをぐっと押さえる。

(この演奏が終わったら告白しよう)

これが最後のチャンスだ。これを逃したらもう告白できる気がしない。二人、進路は別々なのだから。

決意を胸に春花はピアノに対峙する。隣にいる静をいつも以上に感じながら、想いを込めて鍵盤を打ち鳴らした。

二人で奏でるトロイメライは最高に気持ちがいい。

ずっと弾いていたい。
ずっと曲が終わらなければいいのに。

弾き終わった直後、何物にも代えがたい高揚感が胸を熱くする。この余韻は忘れてはいけない。壊してはいけない。

そう感じたからこそ、春花は静にとびきりの笑顔をみせた。

「山名、俺……」

「ずっと応援してるね。私、桐谷くんのファン1号だから。有名になったらコンサートのチケット送ってよね」

「……ああ、わかった」

気持ちを誤魔化したあの日。
寂しく笑った静。

二人の気持ちは宙に浮いたまま、月日は流れた。
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