初恋だった人が結婚した【完】

 
 ご飯を食べる時に飲み会のことを相談しようと思ったけど、結局話せなかった。
 
 後ろめたさのせいか、申し訳ない気持ちのせいか。それともどちらもか。
  

 それから、一週間言えずじまいだった。

 そんなこんなで飲み会が翌日に迫ってきた。2人で食後のアイスを食べながら、今日の出来事を話していた時のこと。



 「ねぇ、聞くよ?」

 朗らかで温かい口調に、少し困ったように目を細めて笑う。アユはいつもこうだ。

 「話して」でも「何かあったか」でも「聞くよ」とだけ言う。

 この言葉に何度救われて、どれほど甘えてきたかアユは知っているだろうか。
 このモヤモヤした、でも確実に最低な気持ちにどこまで気づいているのだろうか。
 
 
 アユと結婚すると言うことは、このぬるま湯の中に氷を入れたような世界に浸り続けることだ。今のわたしではダメだ。そんな覚悟もなければ、勇気もない。最低だ。

 
 「…あのね、明日、飲み会があるんだ。迷ったんだけど、行こうかと思っていて…」


 思ったことは半分も口に出せずに、心の中に止まったままだ。
 支離滅裂な気がしている。

 ちゃんと伝えたいことが伝わったのだろうか。

 待っててほしい、でもこわたしが言える言葉ではない。


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