溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
(2)ふわふわさん、拾いました!
「うわー。〝三次元〟にこんな綺麗なお顔の人がいたなんて♥」

(なんて悠長に感心している場合ではない! そんなこと分かってる。分かってはいるんだけどぉぉぉ!)

 その男性の顔を目にしたら、きっと誰もが思わず見惚れずにはいられない程、道路に倒れて気絶している男の顔は整いまくっていた。

 ましてやいま彼を見下ろしているのは、今年大学を卒業したばかりのうら若き乙女。
 実は彼女、アニメや漫画や小説と言った二次元男子にハマりすぎて、今までいくら男性から告白されて「じゃあ、(とりあえず?)よろしくお願いします」とお付き合いしてみても、どうもしっくりこないと言う、グダグダな恋愛スキルの持ち主なのだ。

 敗因は彼氏のことを好きになりきれない自分のせいなのか、はたまたドリーマー過ぎて二次元キャラがサラリとするような突飛なことを三次元彼氏に要求しまくってしまうせいなのか。

 兎にも角にも初めて自主的に三次元――現実世界――で日和美(ひなみ)自身が心の底からかっこいいと思える相手に出会えたのに、ときめくなという方が無理だった。



 色素薄めのふわっふわの癖っ毛は、前髪がセンターパートに分けられた、少し長めのマッシュ。
 横向きに倒れているので後頭部付近も見えているけれど、そこは綺麗に刈り上げられていた。
 その辺りもふわふわの髪質と変わらぬ、透け感のある薄い毛色――ともすると金髪に見えちゃうくらい――なところを見ると、彼のこの髪色は生まれつきのモノなのかも知れない。

 そう思ってみれば、閉じられたままの目元を縁取る長いまつ毛も、その上で綺麗な曲線を描いている眉も同色。


 涎を垂らさんばかりの勢いでうっとりとそんな彼に見惚れていた日和美だったけれど。


(とっ、とりあえずっ!)

 テンパった人間というのは何をするか分からない。
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