溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
(21)ふたりで一緒に暮らしたい
「なぁ日和美(ひなみ)。いい加減うちに越して来いよ」

 日和美に全てを洗いざらい告白して、身体を繋げてから一ヶ月余り。

 時節はじめじめと鬱陶(うっとう)しい日が多い、梅雨の長雨に差し掛かっていた。


 信武(しのぶ)は今、萌風(もふ)もふとしての締め切りに追われている真っただ中。

 別々に住んでいるがゆえに、なかなか日和美との時間が取れないことが目下のところ最大の悩みの種で。
 冒頭のように同棲しようとずっと日和美に持ちかけているのだけれど、信武の恋人はなかなかに手強(てごわ)かった――。


***


 久々に日和美が夜マンションまで来てくれて、一緒に夕飯を食べて。

 当然、さぁこれからまったり・イチャイチャ・ラブラブタイムが満喫出来る!と期待していた信武だ。
 なのに皿の片付けを終えるなり、日和美が「明日も仕事だから帰るね」と(つれ)ない態度を取るから。

 信武はどうにも納得がいかない。

 それで、玄関先。
 愛車のキーを手にして靴を履いた日和美に、信武がブーブーと文句を言っている真っ最中。

 とはいえ、こうなったのにはちゃんと理由があって。

 食事中、日和美からさり気なく仕事の進捗(しんちょく)状況を聞かれた信武が、「まぁまぁだ」と言葉を(にご)したからに他ならない。

 日和美は、信武のそのセリフを「まだまだだ」と脳内変換したようなのだ。


「ねぇ信武。お仕事、まだ終わりそうな目処(めど)が経っていないんでしょう? お願いだからしっかりお仕事して? 私、新作読めるの楽しみにしてるんだから」

 土間の上。
 段差のせいで普段より十センチくらい余計に身長差が加わった分、いつもより角度を付けて信武を見上げてくる日和美に、不機嫌さを隠さずに口をへの字に曲げたら「そんな顔しないの」と頬を優しく撫でられた。

 この一ヶ月ちょいで、すっかり信武を呼び捨てすることにも慣れたらしい日和美は、最近言葉遣いからも敬語が外れてきている。
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