溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜


「――日和美(ひなみ)さんはきっと、文学乙女なんですね。不破(ふわ)という名前の説明で、不埒(ふらち)破瓜(はか)が出てくる人はそうそういないと思います。それに……不破(ふわ)譜和(ふわ)って……最初に日和美さんが僕に呼び掛けてくださった名前ですもんね? うん。気に入りました。では改めまして、よろしくお願いします」

 だけどさすがお気遣いの〝不破(ふわ)さん〟だ。
 少しだけ時間は要したけれど、ふわりと微笑んでそんな風に言ってくださるのだから。

「あ、でもやっぱり」

 ――変じゃないですか?と続けようとしたら、「それに……上手く言えないんですけど。実は日和美さんに不破(ふわ)譜和(ふわ)さんって呼び掛けられると、この辺りに引っかかるものがあって……。何か思い出せそうな気がするんです」と、こめかみの辺りを指さしながら先手を打たれてしまった。

「え?」

 それは初耳だったので、思わず間の抜けた声を出して不破(ふわ)さんを見つめたら、不安そうな笑顔を向けられる。

 (こんな心許なげなお顔をしていらっしゃるんだもん。私が不破(ふわ)譜和(ふわ)さんって呼び掛けることで何か思い出せそうならもうこのままでいいかな?)と思ってしまった日和美だ。



「じゃあ、えっと……改めまして――。山中日和美です。よろしくお願いします」

不破(ふわ)譜和(ふわ)です。よろしくお願いします」


 そんなこんなで、ふわふわさんは〝不破(ふわ)譜和(ふわ)さん〟になりました。
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