溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
(1)真夜中の通販
 北側外廊下に面した玄関扉横のプレートに『Hinami(ひなみ) Yamanaka(やまなか)』と書かれた、四階建てアパートの二階の一室。

 ワンフロアにつき世帯数は三つのこのアパートで、山中日和美(ひなみ)が住んでいる部屋は共有の階段やエレベーターから一番近い位置にある西の端っこ。


 深夜零時を過ぎたというのに、明かりの付いていないその部屋の中、テレビから漏れ出す光だけが、煌々と室内を照らしていた。

『今日ご紹介するイチオシ商品はこちらっ!』

 来週半ば――四月から新卒の新入社員として社会に出て働き始めるというのに、真っ暗な部屋の中、うら若き乙女が真夜中の通販番組の画面に釘付け。

 学生時代にハマってしまった深夜の通販番組視聴の習慣が、なかなか抜けなくて困っている。

 二重まぶたの大きな瞳が、テレビに映る実演販売士の巧みな話術にキラキラと輝いていた。

 ショートボブをシアグレージュに染めた彼女は、フワモコ素材のパジャマ姿のまま、柴犬の形を模した平べったいモコモコクッションを抱えるようにして、ラグの上にちょこん……と体育座り。
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