それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
美羽、どうしてあんな人と話したいんだろう。

確かにこの学校の先生の中では、“カッコイイ”に分類されるのかもしれないけれど、世間一般で見ると、別に“カッコイイ”わけでもないし。

特に話しが面白いわけでもないし、むしろ、なにかと面倒を押し付けてくるし、わがままだし、先生の立場を利用して人を振り回してばっかりだし。

そもそも、全く先生らしくないし。


「やっぱり親友でも、わからないことってたくさんあるよねえ」

ボソッとつぶやいた声が聞こえたのか、美羽は「なんか言った?」と聞き返した。

「ううん、なんでもない」

「今何か言わなかった?」

「んー、親友でもわからないことって、まだいっぱいあるなあと思って」

「なにそれ、何の話?」

「なんでもないよ」

「気になるよ~!」と主張する美羽を「何でもないってば」となだめつつ、トントンと音を鳴らしながら階段を降り、靴箱へむかう。


「沙帆?」

靴箱で上履きからローファーへ履き替えていると、後からやってきた男子集団の中にいた一人に呼び止められる。

「お疲れ様、今日残っていたんだ」

沙帆が残るなんて珍しいな、という彼の言葉に頷いてから、「翼もお疲れ様」と、私も彼に労いの言葉をかける。

児玉 翼(こだまつばさ)


「もしかして、新入生ですか? 第一体育館ならこっちですよ」

進学校でもありスポーツの強豪校でもある私たちの学校には、体育館が四つある。

どの体育館で入学式が行われるのか分からず迷っていたところを助けてくれたのは、翼だった。

「実は俺も新入生なんです。それぞれの体育館の場所が離れているし、わかりづらいですよね」

声をかけてくれるだけではなく、「案内してもらうことになっちゃって、ごめんなさい」と謝った私に、彼は「俺も最初迷っちゃったんで、大丈夫ですよ」と微笑んでくれた。

それから、クラスは違うものの、学力別に行われる授業や食堂などで会う機会があり、
入学した二か月後に、彼からの告白で付き合うことになった。

優しくて、親切で、そして学年でもトップ5に入るぐらい優秀な、自慢の彼氏。


「そういえば、同じクラスの奴から聞いたんだけど」

翼が自分の靴箱からローファーを取り出す。

「沙帆、畑中と仲良いんだって?」

翼の言葉を聞いた瞬間、私は今日一日のすべての疲れが押し寄せてきたように感じた。

「それ、誰が言ってるの?」

「隣の席の女子」

「児玉くんの彼女、畑中先生といつも一緒にいるよね? 羨ましいなあ」とまで言われたんだぞ、と翼が苦笑する。


「沙帆と畑中先生って、本当に仲良いよね?」

最近、同じクラスの子たちにも、“不本意ながら”こう言われることが何度かあった。

けれど、まさか、先生が副担任を受け持っていないどころか何の関わりもない翼のクラスにまで広まっているなんて……嫌すぎる。最悪すぎる。

やっぱり先生と関わると、ろくなことがないや……。
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