それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。

お姉ちゃん

「ただいまー…」

家に着き、玄関のドアをあけると、普段は無いけれど見慣れたパンプスがある。

もしかして。
いや、その可能性しかないんだけれど。

私は大きくため息をつくと、重い足取りでリビングへ向かう。

「ただいま……」

ゆっくりとリビングのドアをあけると、お姉ちゃんが夜ご飯を食べながら「お帰り、沙帆」と手を振った。

「お姉ちゃん、帰ってきてたんだ」

「うん、明日明後日と、実習がお休みだからね」


地元の国立大学の医学部医学科に通うお姉ちゃんは、大学のすぐ近くで一人暮らしをしている。
大学までは片道二時間前後で、通える距離と言えば通える距離らしく、入学して半年間は実家から通っていた。
けれど、実習や勉強が忙しくなるにつれ、自由のきかない通学時間が結構ストレスだったらしい。

「一人暮らしをしたい」

お姉ちゃんが言い出したとき、想定外だったのか両親はかなり渋っていたけれど、最終的にはお姉ちゃんの説得が勝ち、お姉ちゃんは一人暮らしを手に入れた。

まあ、説得期間だって、たったの一週間ぐらいだったけれど。両親は、おねえちゃんに甘々だし。


「あ、沙帆、帰ってきたんだ。おかえり」

キッチンにたっているお母さんが、振り向いた。

「ただいま」

「ごはん、食べるわよね?」

「どうしようかな……」

お腹はペコペコだし、いつもならすぐに食べるんだけど。

「今日は先にお風呂―…」

「えー、ちょうどお味噌汁温めなおしたところだったのに」

私の言葉に被せるように、お母さんが言う。

「いつも、お風呂より先にごはん食べるっていうから。今日も同じでいいでしょ?」

先にごはんって決まっているなら聞かないでよ。

そう思ったけれど、作ってもらっている立場ではなかなか反論は出来ない。

「……うん」

「はーい」

お母さんは、少し不満層に返事した私に気づいていないのか、かなりの上機嫌でーこれはきっと、大好きなお姉ちゃんがいるからー私にごはんを運んできてくれた。

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