それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「それでは、最後に、副担任の先生を紹介します」

かれこれ十分以上話し続けた後、ようやく放った中野先生の言葉に、あちらこちらでクラスメイトたちがコソコソと話し始める。

「職員室に呼びに行ってくるから、静かに待っているように」

先生はそう言ったけれど、先生が教室を出た瞬間、一気に騒がしくなった。

やっぱり今朝、みんなの落ち着きがなかったのは、副担任の先生のせい、か。
みんな、副担任の先生に、興味とかあるんだなあ……。

急にざわざわとし始めたクラスメイト達に少し驚いていると、美羽が「いよいよだあ」と期待に満ちた目で私に笑いかける。

「イケメンだったらいいなあ、目の保養になるもん」

「そうだねえ」

そりゃ、イケメンじゃないより、イケメンの方が良いに決まっている。

けれど、それ以上に、口うるさくない先生だったらいいなあ。

どうか鈴木先生みたいな“先生”ではありませんように。

心の中で祈った瞬間、教室のドアが開いた。


「なに、あれ」

思わず、心の声が漏れる。

中野先生と一緒に教室に現れた“先生”は、
同級生の男の子たちと同じぐらい身長―ちょうど同級生の男の子たちの平均的な身長の高さぐらい―で、
隣に座っている男の子と同じ髪形―おそらく、マッシュショートという髪形―をしていて、
お世辞にも“先生”らしさは感じられなかった。

一応スーツは着ているけれど、淡いブルーにシルバーのストライプ柄のネクタイが、より「幼さ」を強調させていた。


「ねえ、沙帆!!」

美羽が弾けるような笑顔で振り向く。

「たかちゃんが言う通りだったね!! イケメンじゃん!!!」


「本当だったのは、“新人”のほうでしょ」

教壇に立って意気揚々と挨拶を始めた先生をチラッと見てから、独り言のようにぽつりと、美羽の背中につぶやく。

どこがイケメンなんだろう。

それよりもー…。

「新人ですが、何事も全力で取り組みたいと思っています!!」

聞こえてきた言葉に、私は大きくため息をつく。

あいつ、絶対、熱血じゃん……。

イケメンじゃなくて良いからーそもそもイケメンじゃないけれどー落ち着いた先生が良かったのに。

もう、どうでも良いから、早く終わってくれないかな。

副担任とか、新人とか、イケメンとか、もうどうでも良い。

はあ……。

もう一度盛大にため息をつくと、頬杖を突きながら、現実逃避をするように、窓の外を見る。

「綺麗……」

少し風が強いからか、校庭では、桜の花びらが舞い散っている。

外の世界はこんなにも明るくて綺麗なのに……なんだか嫌になっちゃうな。

「なんか、色々、最悪」

ボソッとつぶやいた私の声は、先生の挨拶に対してクラス中から沸き起こった拍手でかき消された。
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