それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「あ! 吉川!」

靴箱が見えたところで、ちょうど向こうからやってきた畑中先生に呼ばれる。

「うわ、畑中じゃん」

隣でボソッと翼がつぶやく。

そっか、翼、あんまり先生のこと好きじゃないよね。

はっきりとは口にしないけれど、
私が翼に「雑用を押し付けられている」と言ってしまって以来、
先生のことを話す口調や表情から、翼は先生のことをあんまり良く思っていないようだった。

「吉川」

先生は私の隣で翼が嫌がっていることに気づかず、私の前で足を止めた。

「お前、今回の中間試験、よく頑張ったなあ! 学年で二十位だぞ!!」

「うん、いつもより数学の点数がかなり良かったから」

試験前、重点的に数学に取り組んだ結果なのか、平均点より下の点数しかとったことの無かった数学が、なんと平均点より十点ほど上の点数を取ることが出来た。

「ずっと数学ばかり勉強していたからなあ、偉いよ、お前!」

先生は私の頭を、くしゃくしゃと撫でた。

「ちょっと、髪形、崩れちゃうじゃん、やめてよ」

「いいじゃん、どうせ今から帰るだけだろ?」

先生は、ガハハと豪快に笑う。

「毎日の課題に加えて、試験直前はいつもより数学の自主課題もいっぱい解いていたもんなあ。本当によく頑張ったよ」

「それはどうも」

「まあ、未だに、俺の課題ノートのコメントにはほとんど反応してくれてないけど」

「【うん】とか【はい】とかは書いてるでしょ」

「お前なあ、【うん】とか【はい】とかで、コミュニケーション取っている気になるなよ……」

先生はわざとらしく呆れたようにため息をつくと、「まあいいや」と笑った。

「とりあえずよく頑張ったな。今度の期末試験も頑張れよ」

横を通り過ぎるついでに、先生は私の頭をもう一度クシャッと撫でると、スタスタと歩いていく。

こんなこと言ったら、先生笑うかな。
けれど、今日ぐらいは、素直になってもいいよね。

今までで一番良い成績を残すことが出来たのは、少なからず、先生のおかげだから。

「先生っ」

「んー?」

ゆっくりと振り向いた先生に、私は笑う。


「ありがとう!! 褒めてくれて!!」

いつの日か、約束してくれたように。
頑張った姿を見てくれていて、褒めてくれて、ありがとう。

「後、毎日、問題の解き方のコツ、書いてくれてありがとう!!」

実は、毎日の一言コメントに付け加えられるようになった解き方のアドバイス、今回の試験ですごく役に立ったんだよ。
本当は、先生に、すごく感謝しているんだよ。

だから。

「これからも数学、教えてね!!」

「おう!」

先生は一瞬だけ驚いたような素振りを見せてから、照れくさそうに笑った。


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