それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。

私の本音

夜、寝る前にお水を飲むためにキッチンへ来た私は、お目当ての水を飲み終えると、リビングにいた両親に「おやすみなさい」と告げ、背を向けた。

「沙帆」

階段を数段登った時、お母さんが私を呼びとめた。

「……なに?」

お母さんは少しの間―なにかを考えるかのようにー眉間にしわをよせてから、口を開いた。

「お母さん、なにか間違っていた?」

「え……?」

予想外の問いかけに、私は固まった。

「お母さん、今までなにか、間違っていた?」

ゆっくりと、一語一語確かめるかのように、お母さんはゆっくりと尋ねた。

「なにかって……」

お母さんの質問の意図がわからず問い返すと、お母さんはまたもや黙った。

「いや、なにもない」

数十秒の沈黙の後、お母さんは続けた。

「沙帆、やっぱり早く、志望校決めなさい」

「お母さん……」

「畑中先生だっけ? あの副担任の先生。あの先生は『焦らなくて良い』って言っているけど、早く決めなさい」

早く目標を定めるに越したことはないから、と、お母さんは付け加えた。

「お母さん、私、」

「だいたいねえ」

お母さんは私の言葉を遮った。

「あの先生、新任でしょ? まだ沙帆と知り合って、3か月なんでしょ? 沙帆のことなにもしらない、そんな人の言葉、信用したらダメよ」

「どうして」

自分の言葉を肯定するかのように大きく首を縦に振ったお母さんに、私は努めて冷静に、問いかけた。

「どうして、そんなこというの?」

私のこと、なにも知らないくせに。
私のこと、なにも知ろうとしないくせに。

「お母さんは」

私は早まる鼓動を整えてから、続けた。

「本当に、私が志望校を決めていないと思っているの? 本当に、私には夢がないと思っているの?」

お母さんは、私の言葉に、か、私が言い返したことに、か、わからないけれど、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

「私、なにも考えていないわけじゃないよ。行きたい大学だって、学部だって、あるよ。それに、将来の夢だってー…」

「それなら、どうして教えてくれなかったの?」

お母さんが苛立った様子で口を開く。

「今まで何回も、聞いたよね。志望校はどこなのか。面談前にも、聞いたよね。決まっているなら教えてくれたらよかったんじゃない?」

「……言ったら、応援してくれた?」

じっとお母さんの目を見つめて、私は続けた。
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