それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。

どうしよう

気が付けば暑さに悩む季節はあっという間に過ぎ去っていて、教室のあけた窓から入ってきた金木犀の香りが、鼻腔をくすぐる。

甘いながらもどこか爽やかさを残していて、小学校の時に校庭で初めて嗅いだ時から大好きなのに、今年はどうしても、その香りを楽しむ気になることが出来なかった。


「吉川」

終礼の時間、教卓の前に立つ中野先生に名前を呼ばれ、前に行く。

「はい」

「ありがとうございます」

渡された、少し上質な1枚の紙の中身を確認することなく、私はそそくさと席に戻る。

今回は、どうだっただろう。
今回も、あまり自信、無いな。

少しだけ祈るような気持ちを込めて、私は折りたたんだ紙を開ける。

「やっぱり」

細かいところまで確認する気になれず、私は開けたばかりの紙―模試の成績表―を小さく折りたたむと、カバンに突っ込む。

夏の終わり頃まで順調に偏差値を伸ばしていた私は、9月に入ってから伸び悩んでおり、模試の成績表に記載されている志望校判定でもD判定とE判定を行き来していた。


どうしよう。
このままだと、志望校、変えないといけないよなあ。


私はため息をつきながら頬杖をつくと、中野先生から伝えられる周知事項も聞かず、窓の外をぼんやりと眺める。

特定の教科の偏差値だけが下がっているならまだしもなあ……。
全教科まんべんなく下がっているとなると、どの教科のどの分野から勉強をし始めたら良いかわからないし……。


もう10月。

センター試験まで後3か月、第一志望校の試験まで後4か月。

特定の教科だけなら何とか間に合ったかもしれないけれど、正直、全教科の苦手分野を見直して克服するほどの時間は残っていない。

どうしよう。
塾に通ってみるとか?
けれど、今から新しい環境で勉強をするのも、なんだか落ち着かないし、正直あまり気乗りしない。

やっぱり、志望校を変えるー志望校のランクを落とすーしかない、のかな……。

私は、思わず、ああ、と頭を抱え込んでしまった。

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