甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
飯野さんの存在は、響谷家にとってそんなに大きいのかと不安がよぎるが、できるだけ明るい声で応対する。


「気にしないで。あの、飯野さんのご実家って……」


「飯野グループを知っているか? 歩佳はそこのひとり娘だ」


端的に告げられた返答に息を呑む。

飯野グループについては、先日塔子から話を聞いたばかりだ。


「海外で修業をして、新規オープンするカフェに提案を持ち込んでいるって……」


「ああ、さすがよく知ってるな。その張本人がさっきの歩佳だ」


さらに、飯野家に変な横やりを入れられる前に私をきちんと両親に引き合わせておきたいとも説明された。

二重、三重の衝撃に眩暈がする。

名家のご令嬢というだけではなく、仕事も完璧にこなすキャリアウーマン。

しかも郁さんとは昔馴染みで、お互いの距離感も近い。

あれだけ素敵な人がすぐ傍にいるのに、なぜわざわざ私と結婚したのだろう?


「歩佳は元々家同士が知り合いで、頼まれて少しの間交際していた」


「そう、なの」


知りたかったことをすんなり教えてもらったのに、私の心中は荒れている。

過去の話に動揺しても仕方ないとわかっていても平静を保てない。

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