甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
郁さんは今夜も私を抱くだろうか?


妊娠に向けて、どれだけの頻度で体を重ねるかなど具体的に決めているわけではない。

それでも今日のような心がざわめいている状態で抱かれたら、想いが彼にバレてしまう。

それだけは絶対に避けたい。

隠し通せる自信がない私は早く眠ってしまいたいのに、一向に睡魔がやってこない。

寝室を挟んで私と郁さんの自室があるため、時折かすかな物音が伝わる。

大きすぎるベッドとひんやりしたシーツの感触に、初めての情事を思い出す。

彼の吐息、体温、腕の感触、たった一度肌を重ねただけなのに、悲しいくらい鮮明に覚えている。

今日だってふとした瞬間に触れた指先を見て、この指が私を散々乱したと何度思い出しただろう。

普段は冷静な横顔が、甘く情熱的な表情へと変化する様が脳裏に焼き付いている。

傍にいたい。

だけど、心を見透かされるのが怖い。

相反する想いを抱えては、切なさに胸が震える。

ひとりの男性に心すべてを丸ごともっていかれるなんて思いもしなかった。

夫になった人に片想いするなんてどれだけ不毛なのか。

一番近い存在の人が一番遠い。

次から次へと押し寄せる答えの出ない事柄にふう、と小さく息を吐いたとき、ガチャリとドアの開く音がした。


郁さん?


慌ててぎゅっと目を閉じ、寝たふりをする。
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