甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「少し体が落ち着くまでは仕事を休むと沙也の上司に連絡したぞ」


商業施設からほどなくして帰宅した郁さんが、ソファに座る私の右隣に腰かけ、温かなほうじ茶を渡してくれた。

どうやら取り急ぎノンカフェインのお茶やコーヒー類、大きめのクッションなどを買ってきてくれたらしい。

本当にどこまでも気の利く夫に頭が下がる。

それと同時に心の奥底に閉じ込めた不安がむくむくと頭をもたげる。


あなたが私を心配するのは、後継者としてお腹の赤ちゃんが大事だから?


無事を願っているのは私ではなく、この子?


彼の想いを信じているのに、ゆがんだ考えが自分でも嫌になる。


私が出産した後も、そんな甘い目で私を見てくれる? 


私を、求めてくれる?


喉元までせりあがる言葉を、なにひとつ吐き出せない。

誤魔化されでもしたら、きっともう立ち直れない。

だって私はどうしようもなくこの人を愛している。


ずっと、私が妊娠していたらいいのに。


時間が止まってしまえば、このまま郁さんの想いを向けてもらえるのに。


叶いもしない馬鹿な考えに、自分の弱さや嫉妬深さを思い知る。

手の内にあるほうじ茶も彼の思いやりもすべてが温かいのに、心の奥が寒くて冷たくて体が温まらなかった。
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