甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
貧血は処方された薬のおかげで改善してきているし、通勤は車で送迎してもらっている。

それでも郁さんは日々職場へ向かう私を心配し、早く産休に入ってほしいと何度も口にする。

幸いにも悪阻が重くない私だが、気分がすぐれない日はやはりある。

それでも彼への不安を業務の中で束の間でも忘れられて、少し安心する自分がいる。

今後体調面で同僚には迷惑をかける点を鑑み、結婚と妊娠については郁さんの同意を得て職場の仲間に伝えた。

そもそも私の結婚は極秘扱いだったため周囲にはとても驚かれた。

そのうえ相手が相手だ。

寝耳に水のニュースに、しばらくは同僚たちから質問攻めにあった。

彼と私の接点がまったく見えない、と何度も言われた。

由衣ちゃんにはお伽話みたいですね、とキラキラした目で興奮気味に根掘り葉掘り尋ねられ、自宅に遊びに行かせてほしいと懇願された。


『沙也は真面目に全部答えようとするから心配だわ』


そう言って、興味津々に話を聞き出そうとする人たちを塔子と佐多くんがうまくあしらってくれていた。

それでも周囲から羨望の眼差しを向けられる度、違和感と居心地の悪さを感じていた。

元々私たちの結婚は契約まがいのもので、お伽話になんて程遠い。

一度は心を通わせたはずの夫の本心さえ、今は見失っている私に羨望されるものなんてない。
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