甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「足はむくんでいないか?」


「え?」


「沙也の足取りは大体聞いた。寒空の下を結構歩いただろう……疲れていないか?」


こんなときでさえ、私の体を気遣う彼に胸の奥が熱くなる。


「顔を見せて」


そっと彼は私の体を胸元から離し、大きな手で両頬を包み込む。

見上げた彼の目は不安そうに揺れていた。


「……お前がいなくなって電話も通じず、生きた心地がしなかった。あんな恐怖を感じたのは生まれて初めてだった」


郁さんは玄関の棚に郵便物を見つけて、一旦戻った私が再び出て行ったのに気づいたという。

義兄とすぐさま私を捜し、マンションのコンシェルジュに私が外へ出たと聞いたそうだ。

近所を走り回り、道行く人にも尋ねていたところ、風間さんから連絡をもらったという。


「もう二度とあんな思いをしたくない」


悲痛な表情を浮かべて、彼が私を再び強く抱きしめた。

私の肩に頭を埋める彼の温もりに、胸がきゅうっと締めつけられる。

相変わらず速い鼓動と微かに震える指先に、彼の心労を窺い知る。

こんなにも心配して、気にかけてくれる人をどうして私は疑ったんだろう。

これほど愛しい人を、なんであきらめられると思ったんだろう。

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