本気の恋を、教えてやるよ。



「今更何なんだよ。今まで稲葉のことなんかどうでもよかったくせに、いざ盗られそうになったら惜しくなったわけ?」

「違う!」


筒井の悲痛な叫び声が耳を劈く。

この男のここまで必死な形相は初めて見た。


「茉莉をどうでもいいと思ったことなんて一度もない。……ずっと、俺の特別だった」

「……どの口が言ってんだか」

「俺だって……、俺だってこんな事がしたかった訳じゃない!なのになんで、こんな……」


違う、違うとうわ言のように呟きながら、その場に崩れ落ちるようにしゃがみ込んでしまう筒井。


……訳わかんねえ。


「……頼むから、俺達のことは放っておいてくれ」


やがて、項垂れるようにボソリと呟いた筒井に、ハッと鼻で笑ってやった。


放っておいて?──無理だろ、そんなん。


「悪いけど、俺も稲葉のこと本気で好きだから無理」


今更後になんか退けるか。

何がなんでもお前から稲葉を守るって決めたんだ。



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