本気の恋を、教えてやるよ。



「……偶然だな。駒澤もこれから帰り?」

「え?……あ、ああ…」


まさか筒井の方から話題を振ってくるとは思ってなくて、思わず吃ってしまう。


なんだ……?

なんでこいつ、こんな態度が違うんだ?


「……今日、茉莉とずっと一緒にいたな」


戸惑っていると、ぽつりと落とされた稲葉の名前。


「悪いか?……稲葉も、お前と居るよりは楽しめたと思うけど」


わざと刺々しい言葉で伝えたのは、ちょっとした嫉妬からだった。


当たり前のように名前呼びしてるのがムカついたから。そんなの、ずっと前からのことだけど、俺は器が小さいから苛ついた。


だけど。


「……だよな」


てっきり、またいつかの日のように掴みかかってくるかと思ったのに、筒井は何故かそう苦笑しただけで。


「俺、駒澤が羨ましい」


何かを諦めたような、泣くのを堪えたような、そんな表情でそう言うと、そのまま俺の横を通り過ぎ、廊下の奥へと消えていった。




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