本気の恋を、教えてやるよ。



どうしようもない焦り。


「……幸せにしてやれよ」


筒井は俺を責めるでも、怒るでもなく、ただ一言そう言って俺の横を通り過ぎようとした。


それを、黙って見過ごしてれば良かったのに。


「──っ、待てよ!」


なぜ俺は、引き止めてしまったんだろう。


思わず声を荒らげた俺に足を止め振り向く筒井。


馬鹿。こんな奴のこと引き止めてどうするんだ。


おい。


「……もう、稲葉のことは好きじゃなくなったのか?」


そんなこと聞いて、何がしたいんだよ俺は。


それは別に知る必要のない情報だった。


なのに何故か、俺の口は余計なことを口走っていて。


「……駒澤は、どう思う?」


どう思うって、なんだよ。


だけど筒井はそれ以上は何も言わず、今度こそ去ってしまう。


心臓が、ドクドクと嫌な動悸を伝えてくる。


どう思う、なんて、そんなの。


……アンタの浮かべた優しい表情が、全てだろうが。


ああ、嫌だ。


俺は昔から、勘だけは鋭くて。


──嫌な、予感がする。





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