本気の恋を、教えてやるよ。



駒澤くん!と俺を止める悲鳴のような声には、聞こえないフリをした。


「何って……キスしようとしてた。見ればわかるだろ」

「何言ってんの?」


キスしようとしてたとか、ふざけてんの?

素直にいえば許されるとでも?


やけに凪いだ双眸に、胃の奥がムカムカと落ち着かなくなる。


「……ごめん駒澤、俺やっぱり茉莉が好きだ」

「だから何だよ」

「茉莉じゃなきゃ駄目なんだ。だから、俺に譲って欲しい」

「っざけんな……!!」


ドン、とそのまま勢いよく筒井を突き飛ばすと、バランスを崩した筒井が椅子から崩れ落ちた。


稲葉じゃなきゃ駄目?譲って欲しい?


馬鹿じゃねーの。そんなの、いいですよなんて言う奴が居るとでも思ってんのかよ。


俺だって、稲葉じゃなきゃ嫌だ。


「慶太……!」


ふと、視界の端を駆け抜けた彼女に絶句する。


おい。

そっちじゃないだろ。



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